北里大学北里研究所病院糖尿病センター長の山田悟氏が、「ウィズコロナ時代」のロカボ(緩やかな糖質制限)について解説します。ロカボの語源は「Low(低い) Carbohydrate(炭水化物などの糖質)」。新型コロナウイルスとの共生で新しい生活様式が求められる中、食事に気を付けながら、毎日楽しく食べて健康になりましょうと、勧めています。

  ◇    ◇    ◇

厚労省は「糖尿病と強く疑われる人」は1000万人、予備軍が1000万人と推計しています。

血糖値が上がらないようにするホルモンはインスリンです。インスリンは膵臓(すいぞう)のベータ細胞から分泌されますが、このベータ細胞の機能が日本人は欧米人に比べると、弱いことが分かっています。インスリンの分泌能力を見る指標HOMAベータは欧米人が100%、日本人は健常者でも50%程度です(正常は100%)。糖尿病の専門医となって20年以上になりますが、日本人で100%という人をまず見たことがありません。

血糖値を上げる糖質が、小腸でブドウ糖に分解され、血液中に吸収されると、インスリンが分泌され、筋肉と脂肪細胞に放り込みます。インスリンはその一方で肝臓からのブドウ糖の放出にブレーキをかけます。インスリンが足りないと、筋肉と脂肪細胞がブドウ糖を取り込めず、肝臓もブドウ糖の放出をやめず、高血糖になります。

糖尿病1000万人、予備軍1000万人という厚労省の数字は、健康診断でおなじみの空腹時の血糖状態を見るHbA1cの検査データから推計したものです。日本人と体質的に近いと考えられる中国ではブドウ糖75グラムを飲み、2時間後に採血する大規模なブドウ糖負荷試験が行われています。その結果は糖尿病10・9%、予備軍35・7%でした。食後血糖を測ると、境界型と呼ばれる予備軍が3倍以上いたのです。

日本も食後血糖を調べれば、大量の予備軍が現れる可能性があります。認知機能の低下や動脈硬化症などは食後高血糖(予備軍)から始まります。空腹時血糖値は健康診断で問題なくとも、ロカボ(ゆるやかな糖質制限)で血糖コントロールしてみる価値があるとは思いませんか。

◆山田悟(やまだ・さとる)1970年(昭45)、東京生まれ。慶応大医学部卒。糖尿病専門医として多くの患者と向き合う中、カロリー制限による食事療法の限界に直面し、ロカボを提唱している。「糖質制限の真実」「カロリー制限の大罪」(ともに幻冬舎新書)など著書多数。