
群馬県高崎市に本店を置く文具専門店「Hi-NOTE(ハイノート)」は、約5万点の品ぞろえと、従業員の商品知識を生かした店作りで、地元の幅広い層から支持を得ています。同店が目指すのは、店の看板にも記す「Change Stationery,Change Life」です。「体験」をウリにする同店を、ブランディングコンサルタントの櫻田弘文さんが紹介します。【毎日新聞経済プレミア】 運営するのは、戦後から地元で文具販売業を営む株式会社アサヒ商会。3代目の広瀬一成さん(44)はネット通販の台頭などで苦戦する中、2010年に本店をリニューアルして、それまでの法人向けの営業に加えて、一般顧客向けの小売りという新たな柱を立ち上げた。現在群馬県内に3店舗を構え、文具店の店舗のあり方を模索し続けている。 ◇POPやワークショップで顧客と接点 ハイノートの3店舗は広さ190~250坪(約630~830平方メートル)。その中で目を引くのが、商品の種類や用途を紹介する従業員の手書きPOP広告だ。お客はPOPを参考に商品を手に取り、実際に試すことができるサンプルを豊富に用意している。 また、週末を中心に店内のイベントスペースで、オリジナル缶バッジや御朱印帳の製作といったワークショップを従業員が主催する。つくる楽しさと製作で使う文房具などを実際に体験できる場で、通常10~50人を募集し、満席になることが多かった。 広瀬さんは「文房具は毎日のように使うものにもかかわらず、筆記用具以外は使い心地がわからないまま購入するケースが大半でした」と話す。こうした売り方に疑問を感じていたことで、文房具に楽しく親しんでもらう店舗づくりを目指している。 そのためには、従業員には豊富な商品知識が求められる。同店は毎日、開店前の朝礼時に1回10分ほどの商品勉強会を行っている。従業員が持ち回りで講師役を務め、担当するコーナーの中から紹介する商品を選ぶ。朝礼に参加しない遅番などの従業員のためにビデオ撮影もしており、その数は300本を超えた。 ◇文房具イベントを自主運営 また、文房具ファンの裾野を広げるために、14年から文房具イベント「Hi-NOTE EXPO」を年1回、高崎市内で自主運営してきた。約700坪の会場に文具用品メーカー約50社が集まり、一般の来場者が商品を体験できる場を提供している。 入場は無料で、14年は金曜と土曜の2日間で約5000人、15~16年も同様で約8000人が来場した。18年からは土曜の1日だけの開催にしたが、リピーターを中心に多くの人が足を運ぶイベントとなっていた。 ただ、昨年は新型コロナウイルス禍で中止とせざるを得なかった。店内のワークショップも大幅に減らした。広瀬さんは「昨年の緊急事態宣言のころは業績が落ちましたが、マンネリ状態を見直すいい機会になり、広告の仕方やキャンペーンの内容を工夫しました。おかげさまで、昨秋以降は業績が回復しています」という。 ◇地元に根をはる アサヒ商会は、1948年に広瀬さんの曽祖父が高崎市内で文房具店として開業。50年代は戦後の建設ラッシュで、市役所や建築関連企業などに建築製図器を卸して事業を拡大し、その後はオフィス用事務機器の法人営業で業績を伸ばしてきた。 しかし2000年代に入り、ネット通販が伸び始めた。同社は価格競争に巻き込まれ、高級万年筆からカップ麺まで扱う“何でも屋”と化し、事業の方向性を見失っていった。こうした中、大学卒業後は大手物流会社で働いていた広瀬さんが09年に同社に入社し、同年12月に3代目社長に就任した。 自社事業の行く末に危機感を抱いていた広瀬さんは、改革の第一歩として10年に高崎店をリニューアルして、ハイノートの運営を開始。店のコンセプトとスタイルを変えたことで一般客をつかみ、12年に伊勢崎店、19年に前橋店をオープンした。まず地元の群馬県に根をはっていくことを考えている。 その姿勢は独自商品の開発にも見られる。文房具を通して地元を元気にしたいと、ドイツの有名メーカーと連携したオリジナルシャープペンシル「AKAGI RED」(1650円)を19年に発売すると、発注した2000本が完売した。現在、第2弾の「HARUNA BLUE」「HARUNA GREEN」を売り出し、こちらも好調だという。 群馬県内の小中学校の運動会は県内の山にちなみ、チームを「赤城団」「榛名団」といった名前にする。山の名前は地域で異なるが、赤城団だけは全県共通でチームカラーが赤だ。「AKAGI RED」と聞けば、県民は誰もが運動会を思い出すという。 広瀬さんは「全国的に文房具専門店は減少していますが、他にない独自性を持った店が各地にあります。それぞれの店の価値を生かし、共有できる部分を連携して、業界全体で生き残るための取り組みをしていきたい」と話す。文房具専門店には、まだまだ可能性がありそうだ。
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