ソニーは過去に家庭用VTR「ベータマックス」を世に送りながらも、「VHS」との規格戦争に巻き込まれ、結果としてビデオフォーマットで負けた話はもう有名すぎる話です。そこを今さらピックアップしてもありきたりなので、ソニー好きの筆者ならではの視点から、ベータマックスで苦境に立ちながらもソニーが模索していた時期を振り返ってみたいと思います。
◆ビデオデッキとは別のアプローチで登場した「8ミリビデオ」
1988年頃は、家庭用ビデオデッキの普及率が50%を超えて、ビデオのレンタルショップが全国各地にオープンしていました。VHSだ! ベータマックスだ! と当時のマニアたちが論争を繰り広げながらも、テレビで放送している番組を録画できること自体が画期的で、映画やアニメ(のビデオテープ)をレンタルして観られることがステイタスでもあり、ビデオという存在そのものが僕たちの娯楽の中心にありました。
そんな当時のトレンドとはまったく別のアプローチで、見事に市場の軌道に乗ったのが「8ミリビデオ」です。旅行や運動会、家族のイベントを動画で残せるという、これまた当時としては画期的なアイテムでした。対抗馬のVHS-C陣営をものともせず、家庭用ビデオカメラの中心となりました。
そうなると強さというか、貪欲さを発揮するのがソニー。8ミリビデオ専用のビデオデッキを市場に投入します。そもそも撮影した映像を見るためだけに存在する8ミリ専用ビデオデッキは「ベータマックス VS VHS」の規格戦争とは異なった立ち位置にあり、そのカセットの小ささを活かしたアイテムがいろいろと登場したのです。
1985年に発売された「EV-C8」は単なるビデオデッキに終わらず、持ち手がついて、1.1kgの重さの本体をまるごと移動できるポータブル性を持たせていました。
1987年には、6型のカラーテレビと8ミリビデオを合体した「Video8 COMBO」(EV-DT1)を発売。高精細なトリニトロン管を備え、まさにコレ1台でどこでも録画したビデオを見られたのです。アナログチューナーもあったので、そのままテレビも視聴できるうえに、8ミリテープに録画もでき、シガーソケットから電源供給すれば車の中でも使えてしまうまさに移動要塞。家庭内にとどまらず、会社でのプレゼン用としても活用されるなどビジネスシーンにも浸透していきました。
さすがにブラウン管は重いと思ったのか、ポータブル性を極めたいからなのか、1988年には3型液晶テレビと8ミリビデオが一体化した「GV-8」が登場します。液晶テレビになったことで、さらに小型軽量化して片手で持てるサイズになりました。名前も「ビデオウォークマン」と命名され、持ち歩きができる動画プレーヤー(録画機能もあり)をこの時代に具現化していたと思うとビックリです。おそらく大型のビデオテープではこの発想にいたることはなかったはずなので、8ミリテープは偉大だなと思います。
◆ついにソニーがVHSビデオデッキを発売!
そしてついに現実から目を背けることはできなくなったのか、1988年にソニーもついにVHSビデオデッキを発売します。名目上はベータマックスとVHSの併売なのですが、当時はソニーのベータこそ至高だと信じてきたユーザー(筆者)からしてみれば「なんでやねーん!」だったと思います。硬派にベータマックスを貫いてほしかったのですが、それはそれ、これはこれ。もちろんベータマックスユーザーの期待に応える高画質モデルのEDベータを出しつつも、貪欲にVHSモデルも販売していくのでした。
とは言え、ソニーが作るVHS機なだけあって、高機能なモデルがいくつも出てきます。VHS Hi-Fi方式VTRの初号機は「SLV-7」。カメラ一体型ビデオなどと接続して手軽に編集できる“デジタルエディットモニター”を搭載していました。ほかにも、本体とリモコンそれぞれにシャトルステーションを備えて、早送りや巻き戻しまで操作の使い勝手の良い「SLV-F10」や、テープの特性や使用状態を判断して最適な画質で再生する「APC回路」をそなえた「SLV-RS7」などが登場しました。
VHSのノウハウが蓄積されてくると、独特な発想で市場のニーズをつかみにいきます。お約束の合体技、8ミリビデオとVHSを一体化したダブルビデオ「WV-BS1」が登場。8ミリカメラで撮影した映像をVHSテープに編集してダビングして、田舎のおじいちゃんおばあちゃんにプレゼントするとか、友人に配布するという布教活動がものすごくはかどりました。
◆高画質編集や携帯との連携モデルも登場
アナログからデジタルへ、8ミリカメラがDVカメラへとシフトすると、すぐさま据え置きでもDV方式に準拠したデジタルビデオカセットレコーダー「DHR-1000」を投入。水平解像度500本の色にじみの少ない高画質に加えて、デジタルビデオカメラからDVテープへデジタル信号のまま画質や音質の劣化がほとんどなく、高精度な編集ができるとあって、当時のソニーマニアが歓喜したのです。
デジタルビデオカメラで撮影した映像をS-VHSテープへ編集できるデジタルブルビデオ「WV-D10000」もその後に続きます。
実はDV方式のカセットテープには、ビデオカメラに採用されたミニDVカセットだけでなく、サイズが一回り多いスタンダードタイプのDVカセットというものもありました。おそらくそこまで認識している人は少ないかもしれません。スタンダードDVカセットの利点は、そのままカセットのサイズが大きくなったことによって、中の巻きのテープの長さが増え、より長時間録画ができるということです。最長で4時間30分も高画質記録できるとあって、本来はビデオ編集のためにあったDVカセットにテレビ番組を録画するという猛者も現れはじめました。このDVカセット、1本がめちゃくちゃ高価なのに、何本も買うんですよソニーマニアは。
ほかにも4型モニターを搭載したミニDVテープの映像を楽しめるビデオウォークマン「GV-D1000」も登場しました。コレのおもしろいところは、撮影した映像をMPEG1形式に変換してメモリースティックに転送できること。 画質は今思えばかなり低いのですが、メモリースティックに転送することで、クリエやVAIO、ケータイで観られるといった連携ができたのです。
◆規格で勝ったVHSだが結局デジタル化で消滅
こうしてアナログからデジタルの過渡期をつないで渡っていく中で、ベータマックスの最後となったモデルは1993年に発売された「SL-200D」。テープの状態に応じて再生イコライザーの特性などを自動調整するピュアシグナルオプティマイザーを搭載していました。Hi-Band対応ベータデッキのベーシックモデルで、これといった特別な仕様ではなかったのですが、これを最後に新しいベータ方式のビデオデッキは出てくることはなく、最終モデルとしてその役割を終えました。
アナログ時代のVTRフォーマット競争こそVHSに軍配が上がりましたが、2000年に入ると、テープ方式という概念をこえたハードディスクやDVDといった光学メディアなど、デジタル化の波がすべてを飲み込んでいくことになるのでした。
筆者紹介───君国泰将
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