銀河(上の矢印)から、明るい軌跡(中矢印)を描きながら飛び出してきた超巨大ブラックホール(下の矢印)。
NASA/ESA/Pieter van Dokkum et al./Astrophysical Journal Letters 2023
- アメリカ航空宇宙局(NASA)のハッブル望遠鏡が最近撮影した画像は、観測史上初の暴走する超巨大ブラックホールを捉えた可能性がある。
- 銀河から離れていく軌跡は、ブラックホールが追い出されたことを示している。
- 暴走するブラックホールから衝撃波が発生し、それが新たな星の形成につながり、光る筋を作ったと考えられている。
ハッブル宇宙望遠鏡(HST)は、30年以上にわたって宇宙を観測しているが、いまだにこれまで見たことのないような発見をし続けている。その最新の発見となるのが、銀河から飛び出した超巨大ブラックホールだ。これに関する研究論文はarXivで公開されている。
この研究を率いたイェール大学の天体物理学者ピーター・ヴァン・ドックム(Pieter van Dokkum)によると、この論文はAstrophysical Journal Lettersに掲載するための査読を受けているところだという。
この研究に関与しなかった専門家も、この研究成果に興奮している。ロチェスター工科大学の天体物理学者マヌエラ・カンパネリ(Manuela Campanelli)もその1人だ。彼女は「飛び出すブラックホール」のシミュレーションを行っており、「この研究での観測結果はすべてこのシナリオに合致している」とInsiderに語っている。
「暴走」する超大巨大ブラックホールを初めて撮影
両画像とも、右上の点で示される銀河から光の筋が伸びている。その先にある点が、暴走した超巨大ブラックホールを示している。
NASA/ESA/Pieter van Dokkum et al./Astrophysical Journal Letters 2023
上の2枚の画像から、何が起きたのかが分かる。
左の画像を拡大したのが右の画像だ。右上の大きな点が銀河で、そこから左下に向かって伸びるかすかな線の先に小さな点が見える。そこに、暴走したブラックホールが隠れていると科学者は考えている。
ブラックホールはその性質上、人間には見えない。天文学者がブラックホールを「見る」ことができるのは、ブラックホールの周囲にガスや星、その他の宇宙物質が渦巻く熱い円盤があり、それが見えるからだ。
今回撮影された画像で最も魅力的なのは、ブラックホールが描いた筋だろう。研究者が星の調査をしていた際に、その筋に気が付いたという。
故郷の銀河から弾き出されたブラックホールは、猛スピードで宇宙空間を進みながら衝撃波を発生させ、それによって銀河間ガスの雲が攪乱されて星が生まれた。それが筋となって見えるのだと研究者は考えている。
ヴァン・ドックムは「この画像に奇妙な筋があるのを見つけたとき、何かのミスなのかと思った」とInsiderに述べている。
「最初はまったく天体のようには見えなかった。結局、それはミスではなく本物で、他のデータセットでも同じ状況を示していた。それがわかった時には興奮してしまった」
ブラックホールは星を飲み込み、破壊することで知られているが、このブラックホールは星も作り出しているようだ。
画像の天体が本当に暴走した超巨大ブラックホールなのかどうかを判断するには、ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)などを使ったさらなる観測が必要だ。
銀河から弾き出される超巨大ブラックホール
超巨大ブラックホールは、太陽の何十億個分もの質量を持つ、気の遠くなるような密度の高い天体で、すべての銀河の中心に1つあると考えられている。そのブラックホールを追い出すとなると、当然ながら相当な力が必要になる。
それを成し遂げるほどの力が発生するとしたら、2つの銀河が衝突するという凄まじいイベントが発生し、それぞれの中心にあったブラックホールが合体する時だろう。ブラックホール同士の衝突は、宇宙で最も激しく、強力な現象の1つであり、小さなブラックホールのかけらが虚空にはじき出される可能性がある。
宇宙物理学者は、ブラックホールが他のブラックホールに押されると、銀河の外へと「暴走」する可能性があるという説を長い間唱えてきた。
しかし、銀河間をさまようブラックホール、ましてや超巨大ブラックホールの暴走は、これまで確認されたことがなかった。
暴走するブラックホールを説明するには、2つの銀河の衝突を原因とすることが最も簡単だが、今回観測されたことはそうではないようだ。
3つのブラックホールが相互作用するという滅多に見られない激しい現象の末、1つが弾き出された
このブラックホールは極めて珍しく、劇的で、激しく飛び出していったとヴァン・ドックムは考えている。2つの銀河が合体すると、それぞれの超巨大ブラックホールは圧倒的な引力で引き寄せ合い、衝突する。
ただし、これはよくあることだ。HSTは、下に掲載した画像のような衝突する銀河を多く撮影している。だがこの研究で分析された画像からは、合体のあとに奇妙なことが起きていることが分かる。
衝突する銀河。
NASA, ESA, the Hubble Heritage (STScI/AURA)-ESA/Hubble Collaboration, and K. Noll (STScI)
3つ目の銀河が現れ、3つとなったブラックホールが引力によってダンスのように複雑な動きを始め、最終的にはそのうちの1つが弾き飛ばされたと研究チームは考えているのだ。
JWSTが捉えた合体する2つの銀河。
ESA/Webb, NASA & CSA, L. Armus, A. Evans
3900万年前に故郷の銀河から弾き出されたブラックホールは、その後、毎秒約1600キロメートルの猛スピードで暴走しているとヴァン・ドックムのチームは計算している。これは地球を一周するのに25秒しかかからないスピードだ。
つまり、この超巨大ブラックホール(もしそうだとすれば)は、邪魔者が来て自分の家から追い出されたと言えるのかもしれない。第3の銀河に関する証拠についてはまだ検証する必要があるが、残った2つのブラックホールは連星となり、最初にはじき出されたブラックホールの反対側に飛ばされたと研究チームは考えている。
ヴァン・ドックムは「画像が物語っている」と述べた。またカンパネリは、このようなシナリオで理論家が通常想定する2つのブラックホールではなく、3つのブラックホールが関与していることが、この現象をひと際レアなものにしていると述べた。さらに、この銀河のコンパクトで不規則な形は、合体してできた銀河の「典型」だと付け加えた。
ブラックホールから伸びる軌跡は「宇宙ジェット」ではなく、生まれたての星の光
ヴァン・ドックムが精査した謎の軌跡の説明として極めて一般的なのは、銀河の中心にある非常に活発なブラックホールから噴出した宇宙ジェットだという説だ。
しかし、ヴァン・ドックムとカンパネリは、軌跡の形状を見るとその可能性は低いと言う。下の画像のように、宇宙ジェットは発生源から離れるにつれて広がっていく。
ヘラクレスA銀河の中心部にある超大質量ブラックホールの重力エネルギーによって噴射された壮大な宇宙ジェット。
NASA Goddard
一方、今回HSTが撮影した画像には、まっすぐに伸びた軌跡が写っており、宇宙ジェットとは別物だと分かる。さらに、この軌跡が光っているのは、そこで新たに星が形成されているからだとも考えられている。ブラックホールは、猛スピードで宇宙空間を進みながら衝撃波を発生させ、それによって銀河間ガスの雲が攪乱されて星が生まれるのだ。
「(このシナリオが)違うということになれば驚きだ」とヴァン・ドックムは言う。
「もし違うとすれば、いくつかのガス雲か何かが筋のように並んでいるのだと思う」
ブラックホールは人間の目に見えないものだが、他の銀河から暴走するブラックホールが地球に忍び寄っているのではないかと心配する必要は一切ない。
「もし地球に近づいているのであれば、その影響を見ることになるだろう」とヴァン・ドックムは述べた。
からの記事と詳細 ( NASA、銀河から飛び出す超巨大ブラックホールの写真を公開 - Business Insider Japan )
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