[ロンドン 14日 トムソン・ロイター財団] - 氷山は溶け、大陸は縮小して一握りの島々になってしまった。サバイバーたちは「フラッドランド(水没した土地)」をなんとか建て直そうと模索する――。
これは今年発売されたビデオゲームの舞台だ。プレーヤーに気候変動について、そして変動を抑制できなかった場合に起こることについて知ってもらうため、ゲームを活用するという新しい手法が試みられている。
これより前に開発されたゲーム「エコ」では、土地にはまだ活気があり、人間社会は成長している。最終的に小惑星が地球に衝突するが、住民たちはまだそのことを知らない。
エコとフラッドランドは、気候変動に対して異なる方向からアプローチしている。前者が描くのは差し迫る破滅、後者はその後の世界。ゲーム業界として気候変動の議論に加わろうという試みの一貫だ。世界のゲーム産業は2000億ドルの規模を持つ。
フラッドランドの設計者で、ゲームスタジオ、バイル・モナーク代表のKacper Kwiatkowski氏はトムソン・ロイター財団への電子メールで「このゲームは最悪のシナリオを示している」と説明した。
「われわれの最初の調査では現実的な海面上昇は数メートルだった。ゲームでは、もっと劇的にするために10─15メートルを想定することにしたが、今ではこの劇的なシナリオが必ずしも非現実的ではなくなったようだ」とモナーク氏は言う。
世界のゲーム人口は約26億人。環境活動家や政府は、ゲームがプレーヤーに行動変容を促してくれることを期待している。
グラスゴー・カレドニアン大学で講師としてコンピューターゲームについて教えるハーミッド・ホマタッシュ氏は、人々の知識と実感の差を埋めることが目標だと語る。
「氷山が溶けているといった情報は誰でも聞かされている。だがそれは実際、何を意味するのか。現実にはそうした事実を飲み込めないため、一種の遠い世界の出来事に感じる」
2017年の国連気候変動枠組み条約第23回締約国会議(COP23)と翌年のCOP24でホマタッシュ氏は、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の想定をもとにプレーヤーが地球温暖化の影響と闘うゲーム「アース・リメンバーズ」を出席者らに紹介した。
「部屋でプレーしていた人たちから、はっと息をのむ声が聞こえた」と同氏は振り返る。「目の前に起こっていることに本当にショックを受け、震え上がっていた」という。
<ゲームの功罪>
米ピュー・リサーチ・センターの調べによると、米国では気候変動対策を最優先課題の1つにすべきだと考える成人の割合が42%にとどまっている。イスラエルとロシアでは、約半分の人々が気候変動は小さな脅威である、もしくは全く脅威ではないとの考えを示した。
英国の大学生、イーワン・ディニーンさん(19)は、「エコ」をプレーして気候変動危機への意識が高まったと話す。
「以前から気候変動のことは知っていたけれど、自分自身の環境への影響にはあまり注目していなかった」と、イーワン・ディニーンさんは語る。このゲームに500時間を費やした今では自動車の代わりに徒歩を選び、肉食を減らし、飲用水用にマイボトルを持参するようになったという。
こうした効用がある半面、ゲームが悪い慣習を植え付けてしまうこともあると専門家は言う。
例えば任天堂の人気ゲーム「どうぶつの森」では、プレーヤーが持続可能な方法で果樹を植えることもできるが、島全体の樹木を伐採してしまうことも可能だ。このゲームのプレーヤーは天然資源に配慮した行動か、荒らしてしまう行動かに関わらず、自らの選択を肯定的に感じるようになることが研究で示されている。
また、シビライゼーションVIの「嵐の訪れ」は、二酸化炭素(CO2)の排出増加により海面上昇や干ばつ、異常気象に見舞われる中、生き残りに向けて都市の備えをどうしていくかを考えるゲームだ。対策としては堤防建設といった防御策の他、物議を醸している二酸化炭素回収・貯留(CCS)などの最新技術も登場する。
このゲームは、気候変動による甚大な影響を感じられやすくする一方、CCSのような技術が比較的容易に実用化される様子も見せる。このことは現実世界に悪影響をもたらしかねない。
英イーストアングリア大環境科学大学院のエリオット・ハニーバンアーノルダ氏は「さまざまな政治が絡むことなく地球温暖化の問題を解決できる技術がある、という感覚を生みかねない」と警鐘を鳴らす。
「政治が絡まない技術、衝突のない政治を描き出すことで、気候変動の解決策に関してかなり実害のある考え方を招くかもしれない」と同氏は語る。
<ゲーム実況>
ユーチューブやTwitch(ツイッチ)などのゲーム実況配信プラットフォームは、気候変動関連ゲームの視聴者を増やすため研究者に実況配信を試すよう促してきたが、結果はまだら模様だ。
2018年、当時マサチューセッツ工科大学の博士課程の学生だったヘンリ・ドレークさんはツイッチで気候変動チャンネル「クライメートフォートナイト」を立ち上げ、人気ゲーム「フォートナイト」の実況配信を始めた。自身がゲームする様子を実況すると、ゲストたちは政治や環境について発言した。
実況は「予想通り大人気になった」が、ドレークさんはこのチャンネルを数カ月後に閉じてしまう。ゲームのペースが速く、科学について語る場として有効ではなかったからだという。
エコやシビライゼーションVIのようなゲームは、気候変動について話し合う上では実況配信よりも適しているが、実況配信に比べて視聴者のエンゲージメント(関わり)は減るとドレークさんは言う。
「こうしたゲームは素晴らしく、気候変動(そして重要なこととして、その解決策)の両方について話し合うのに有効だが、あいにく実況配信向けには魅力が乏しい」とドレークさん。「気候変動問題に(ゲームでも現実世界でも)わくわく感を持たせることの根本的な難しさは、気候変動が、主に目に見えないガスを原因として徐々に、少しずつ広がる問題だという点にある」と、トムソン・ロイター財団へのメールで説明した。
(Adam Smith記者)
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