2022年の「ビジネス界流行語大賞」があれば、デジタルトランスフォーメーション(DX)はかなりの有力候補だろう。しかし、DXは導入機運が盛り上がる半面、実務での生かし方がみえにくい。なかでもビッグデータの活用には専門的知見が必要とされるだけに腰が引けてしまいがちだ。多くの企業に導入や改善を提案してきたマクロミルのコンサルタント、渋谷智之氏は「いきなりミッションが降ってきて、中間マネジメントが戸惑う『DX迷子』が起きがち」という。著書『データ利活用の教科書』(マクロミルとの共著、翔泳社)を手掛かりに、「DX迷子」を避ける活用法を探った。
マクロミルはネットリサーチ会社として有名だが、DX・データ活用関連のコンサルティングや研修などのサービスも提供している。「データマネジメントプラットフォーム事業本部」という専門部署に渋谷氏は所属している。同社は大量・多種のデータと向き合ってきた実績があるだけに、クライアントからは「手持ちの自前データを、どう活用すればよいのかというアドバイスを求める声が多い」と渋谷氏はいう。つまり、各種のデータは抱えているものの、「生かし方」をうまく見つけられない悩みがある状況だ。
DXが一種のブームとして盛り上がって以降、企業経営者の間では「DXバスに乗り遅れるな」といった気持ちが強まったようだ。「DXでデータ活用を進めろ」という指示だけを経営トップから言い渡され、「十分な知見を持ち合わせていないこともあって、『何をしたらよいのか』と、途方に暮れる中堅マネジメント層が増えた」(渋谷氏)。
DXの指す意味合いは広く、業務の効率化や商品開発への活用、顧客の管理、人事・採用の円滑化など活用の方法も多い。マクロミルに持ち込まれる相談で多いのは、ビッグデータの掘り起こしと有効活用だ。自社商品・サービスの購入実績、購買パターンなど、企業は意外なほどたくさんのデータを保有している。
しかし、そうしたデータをビジネスに活用するためには、「解読」が欠かせない。「生のデータは何のアイデアももたらしてくれない。膨大な数字を、分析・議論の対象にできる状態へ読み解くエキスパートがデータサイエンティストだが、ここに失敗の原因が潜む」と、渋谷氏は指摘する。
ビッグデータ処理の花形的職種であるデータサイエンティストには誤解もつきまとう。まるで魔術師のようにビッグデータの謎を解き明かして、マーケティングや商品開発の「正解」を導いてくれるというイメージを持たれがちだが、渋谷氏は「そんなうまい話はない」と、注意を促す。実際にデータサイエンティストを迎え入れて、データを預けた企業でも、業務成果をめぐって困り事が起こるケースは珍しくないという。
「よくあるトラブル」と渋谷氏が挙げるのは、データサイエンティストが分析結果を導いても、業務にうまく生かせないパターンだ。「データサイエンティストはこの分野では人材ピラミッドの頂点に立つ特殊な職種。ビジネス現場とのつなぎを工夫しないと、せっかくの分析が宝の持ち腐れになりかねない」とアドバイスする。外部のデータ分析サービスに委託する場合でも同じで、データを預ければ「新商品・サービスのシーズ(種)」がきれいにリポートされるとは限らない。「プロとの向き合い方、依頼の出し方にコツがある」と渋谷氏は明かす。
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