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Monday, May 11, 2020

「回復者の心の健康」をどう守るか イタリアでの取り組み - BBCニュース

マルタ・ベリングレリ記者、イタリア

「COVID-19の患者はこの病院に来ると、終わりの始まりだと思うのです」と、精神科医のトッマソ・スペランツァ氏は話す。

スペランツァ氏が勤めるローマのスパランツァーニ感染症研究所は、イタリアの新型コロナウイルス治療を主導してきた。イタリアではこれまでにCOVID-19で3万500人以上が亡くなっている。

しかし同国でアウトブレイク(大流行)が始まって以降、関連する別の緊急事態が並行して発生した。

死への恐怖、不安、うつ、怒り、パニック障害、不眠症、そして生き延びたことの罪悪感。戦争や自然災害を経験した人が受けるこうした影響が現在、広くみられる症状となっている。

「入院患者がすぐに集中治療室(ICU)に入らなくてもいい場合、私たちは最初に恐怖と向き合うセラピー療法をします。恐怖を希望に変え、あなたは独りではないと伝え、病院のスタッフが命を救うために何でもするつもりなのだと信じてもらえるように働きかけます」とスペランツァ氏は話した。

この病院では、精神科医のチームがCOVID-19で入院した患者の家族に毎日連絡を取っている。

「患者よりも家族が参ってしまっていることもあります。見舞いにも行けず待つしかないのは、感情的に疲弊します。私たちは電話で状況を伝えたり、可能であればビデオ通話で患者と対面してもらったりします。彼らの親友になっているのです」

イタリアの精神科医らは公共機関や民間企業、非政府組織(NGO)などと協力し、新型ウイルスをめぐるメンタルヘルス(心の健康)について無料サービスを提供している。

この緊急事態の最前線は北部ロンバルディア州だ。イタリアでの死者の約半数がこの州に集中している。

ダミアーノ・リッツィ医師率いるチームは、ミラノ南郊パヴィアのサン・マッテオ病院でこうした事態に当たっている。

BBCの取材でリッツィ氏は、「精神科医15人のチームがICU内で医師や看護師、患者をサポートしています」と説明した。

「病院スタッフにとって最もつらいのは、個人的な面識のない患者の家族に電話をかけ、愛する人が亡くなったと伝えることです」

1日に10回、こうした業務が発生することもあるという。

リッツィ氏は健康に関する権利を擁護する非営利組織(NPO)ソレテッレ基金の創設者でもある。リッツィ氏の役割は、死を伝えなければならない病院スタッフを支え、生き延びた罪悪感に悩まされるスタッフや患者と向き合うことだ。

罪悪感を覚えた医療従事者は永続的なストレスを抱え、現実からかい離したような感覚に陥るという。

こうした状態になった病院スタッフに、最善を尽くして何百もの命を助けたのだと確信させるのが精神科医の仕事だ。

「医療従事者に、できることには限界があること、そしてこの戦いを続けることを思い出させるのです」

ひとつの家族から複数の新型ウイルス患者が出て、同じ病院で治療受けることもある。その場合には別の形の罪悪感が生まれるという。

リッツィ氏は、「一人が亡くなると、残った人は自分が死ぬべきだったと言います」と話した。

回復者が抱える怒りやさまざまな感情を抑えるため、リッツィ氏のチームは彼らを教会の司祭や市長、地元の協会などとつなげ、支援のネットワークを広げようとしている。

「悲しいことですが、私たちがここで採用しているのは戦時の心理状態と呼ばれるものです」とリッツィ氏は認めた。

また、チームに所属する精神科医にとって最大の恐怖は自身が新型ウイルスに感染し、自宅で家族にうつしてしまうことだという。

彼らは勤務の大半を電話かテレビ通話で行ない、感染を防ぐために滅多に病院の中には入らないようにしている。

悲しみとどう向き合うか

死者数が急増し、多くの国民が悲しみと向き合う中、イタリアの保健省は4月下旬に心理的な危機をサポートする緊急ヘルプラインを開設した。

難民支援のNGOメディテラネアで働く心理療法士のフランチェスコ・カプート氏も、ホットラインを開設した。

電話してくる人たちはまず、明確な情報を求める。それから、愛する人を失って途方にくれ、助けを求めてくる。

ある女性は、父親が40年来のパートナーである妻を亡くしたと電話してきた。

「この女性は父親の心配をしていました」とカプート氏は説明する。女性の母親は自宅で亡くなり、父親は一晩、ひとりきりで亡くなった妻と過ごしたという。

「この女性には心を開いて話を聞いてくれる人が必要でした。父親が一人きりでいるということに耐えられなかったのです」

カプート氏は女性に、父親とビデオ通話をして、食事をしているか定期的に尋ねるようアドバイスした。

イタリアではこれまで、COVID-19で亡くなった患者の遺族は葬儀に参加できなかった。しかし現在は、親族に限り15人まで参列が認められている。

病院を出た後の生活

イタリアの新型ウイルスの感染者数は21万9000人に上っているとされる。

病院を退院した人の多くが、通り抜けてきたトラウマを払拭するのに苦労している。

患者が自宅に戻った後も、病院側は連絡を取り続けようとしているとスペランツァ氏は話す。

「家に戻れてほっとする一方、まだ家族と接触できず、隔離状態に置かれます。たったひとりで病院でのトラウマとPTSD(心的外傷後ストレス障害)を再体験するのです」

退院前にも、病院の外での生活について精神科医がアドバイスするという。

「食事を誰が持ってくるのかを知っているか、退院後に従うべき療法は何かを確認します。よく眠れているかをチェックし、トラウマがぶり返した時には落ち着かせようとします」

「さらに、家族とも連絡を取ります。小さな支援の積み重ねが彼らの日常を変えます」

スペランツァ氏はまた、病院スタッフが「燃え尽き」ないように健康状態に気を配ることも必要だと話した。

しかし、患者自身が希望の星となることも多いという。

ある75歳の患者は入院するときにパニックを起こしたが、スペランツァ医師と話した後はその心持ちが変わった。

このウイルスは自分を殺さない、孫が生まれるまでは待とうとその患者は決心したという。

「私はこの病院から退院する。この新しい奇妙な世界に生まれる赤ちゃんを迎えるんだ」

(英語記事 Italy battles for both mind and body

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