地上から約400km上空を飛行する国際宇宙ステーション(ISS)は微小重力環境となっており、さまざまな物の挙動が地上とは異なります。「Capillary Cup」は微小重力環境下で、袋やストローを使わずに水を飲みたいという宇宙飛行士の願いをかなえるために開発された特殊なカップです。
NASA: Capillary Cup | Vignelli Center | RIT
https://www.rit.edu/vignellicenter/product-timecapsule/nasa-capillary-cup
水に限らず液体の表面には、表面積を可能な限り小さくしようとする「表面張力」が働きます。そのため、以下のムービーで見られるように、ISSの船内に水を出すと空中で球形になります。
4K Video of Colorful Liquid in Space - YouTube
また、水の表面張力が強いため、微小重力環境下で水に触れると肌に張り付いて離れないという現象も起こります。以下のYouTubeショートでは、ペットボトルからこぼれた飲み物が乗組員の顔に張り付いて離れず、最後にタオルで吸い取ろうとする場面を見ることができます。
こうした理由から、地上では当たり前にできる「マグカップに液体を注いで飲む」という行為が微小重力環境下では不可能になってしまいます。ISSでは水を飲むために専用の容器やストローを使う必要があります。「カップを傾けるとコーヒーが口の中に流れる」という現象は地上のように重力がしっかりと存在するからこそ起こり得るのです。
Capillary Cupは、NASAの宇宙飛行士であるドナルド・ペティ氏が「ISSの微小重力環境下でも地上のように水やコーヒーを直接飲めるカップを開発できないか」と考えて開発したものです。最初にISSで作られたプロトタイプは耐水シートと耐水テープ製で、液体が細い隙間を移動する毛細管現象を応用し、飲み口の縁まで液体が流れるように設計されていました。
ペティ氏が実際にこのプロトタイプ版Capillary Cupでコーヒーを飲む様子が以下のムービーの46秒頃からで確認できます。
ISS: Science in a Cup - YouTube
その後、このプロトタイプはポートランド州立大学のマーク・ワイスローゲル氏との共同開発で改良されました。このカップは3Dプリンターで出力できるように設計されており、食事にも使えるプラスチック製。流体力学を応用し、地上と似たような形で水やコーヒーを飲むことができるそうです。
さらに、ペティ氏はこのワイスローゲル氏と共同設計したCapillary Cupの陶器版を開発しました。この陶器版Capillary Cupは記事作成時点でISSの備品となっており、ISSで発明されて初めて特許を取得した製品となっています。
この記事のタイトルとURLをコピーする
からの記事と詳細 ( 「宇宙でもカップからコーヒーを飲みたい」という願いから開発された微小重力環境での使用を想定した特殊なカップ「Capillary Cup」 - GIGAZINE(ギガジン) )
https://ift.tt/PT3AKMr
科学&テクノロジー
No comments:
Post a Comment