超小型の「Jelly」からキーボード付きの「Titan」、2画面の「TickTock」シリーズなど、数々のユニークなスマートフォンをリリースしている中国・上海のスマートフォンメーカーUnihertz。そのUnihertzから待望の最新作「Jelly Star」がリリースされ、間もなくKickstarterでも出資を募り始める予定だ。本製品は日本でも投入予定となっている。
Jellyシリーズといえば手にすっぽり収まるほどの小ささが特徴のスマートフォンで、同社を一躍有名にした代表作とも言えるシリーズ。特に2021年に発売した「Jelly 2」はFeliCa対応で人気を博した。今回のJelly Starではどこが進化したのか。発売に先立ってレビューする機会を得たので、レポートをお届けする。
異色のJellyシリーズ4作目の驚異的なスペック
近年のスマートフォンは大型化をたどる一方だ。もちろん同じ重量や薄さであれば、ディスプレイは大きくて見やすいことに越したことはないのだが、一方でプロセッサが目指した性能向上で発熱が増えそれを処理するための放熱機構の肥大化や、大画面/高性能プロセッサの駆動時間を維持するためのバッテリの大容量化、よい写真を目指すためにカメラ周囲の部品の大型化は、逆にスマートフォンを設計する上で避けられない要素になってきたといえる。
そんな中、小ささを追求したJellyシリーズはまさに真逆の発想によって生まれた製品だ。まずは筐体ありきで、その中になるべく実用的なスペックで、最新パーツを詰め込んでいったらどこまで詰め込めるのか? ということを具現化したものだと言える。
そんなJellyシリーズも、2023年でついに4代目を迎える。何が進化したのか? という点はまず気になると思うので、その仕様を歴代モデルと比較して以下の表にまとめてみた。2022年末の「Jelly 2E」は2の進化版というより廉価版という位置づけなので、Jelly Starこそ2の正統後継(そう数えると3代目)に当たると考えていい。
モデル | Jelly Star | Jelly 2E | Jelly 2 | Jelly Pro(無印) |
---|---|---|---|---|
発表時期 | 2023年6月 | 2022年11月 | 2020年7月 | 2017年5月 |
プロセッサ | Helio G99 | Helio A22 | Helio P60 | MT6737T |
メモリ | 8GB | 4GB | 6GB | 2GB(1GB) |
ストレージ | 256GB | 64GB | 128GB | 32GB |
ディスプレイ | 480×854ドット3.03型 | 432×240ドット2.45型 | ||
メインカメラ | 4,800万画素(Samsung GM2) | 1,600万画素 | 1,600万画素(OmniVision OV16880) | 800万画素 |
通信 | 4G LTE | |||
初期OS | Android 13 | Android 12 | Android 10 | Android 7.0 |
並べて比較してみると、「時期的にはそろそろ5G通信に対応してほしかったな」といった雰囲気だが、それ以外のスペックは2からかなり進化したことが分かる。後述するがHelio G99は決してハイエンドではないが、普段遣いでまったく困ることのない性能どころか、ある程度3Dゲームがプレイできるレベルだった。
また、メモリ8GB+ストレージ256GBはGoogleのハイエンドスマホ「Pixel 7」に比肩し、エントリースペックのスマートフォンを一蹴する。それぐらい、Jelly Starは小型ながらも、恐ろしく実用的なスペックを備えているのだ。
どのぐらい高速化したのか?
スペック上でプロセッサがHelio P60からHelio G99に進化したわけだが、CPUコアがCoretex-A73×4+Cortex-A53×4の構成から、Cortex-A76×2+Cortex-A55×6へと進化した。Cortex-A76自体はSkylakeの9割の性能に迫る高性能なコアである。
一方GPUコアはMali-G72 MP3からMali-G57 MC2となった。型番上ハイエンドな7シリーズからミドルレンジ向けの5シリーズ、しかもクラスタ数も3基から2基に減っているのだが、アーキテクチャは1世代前のBifrostから現行のValhallとなり、1クラスタあたりの処理性能は大幅に高まっているため、Mali-G57 MC2のほうが高性能である。
GPU | Mali-G72 | Mali-G57 |
---|---|---|
ALU数 | 3 | 2 |
Warp幅 | 4 | 16 |
最大スレッド数 | 384 | 1,024 |
FP16命令数/サイクル | 48 | 128 |
FP32命令数/サイクル | 24 | 64 |
フラグメンツ/サイクル | 1 | 2 |
ピクセル/サイクル | 1 | 2 |
テクセル/サイクル | 1 | 2 |
ロード/ストアキャッシュサイズ | 16KB | 16KB |
テクスチャキャッシュサイズ | 8KB | 32KB |
タイルビット/ピクセル | 256 | 256 |
加えて、プロセッサの製造プロセスルールが12nmから6nmへと微細化された。実際ベンチマークやゲームプレイ中も発熱は全くと言っていいほど気にならない印象で、純粋にJelly 2から性能向上を果たしたと見ていいだろう。
といったところで、ベンチマークでは通常使用時の性能を評価する「PCMark」、3D描画の性能を測定する「3DMark」、そして純粋にCPUとGPUの性能を比較する「Geekbench 6」を実施してみた。
PCMarkのWork 3.0 performance scoreは、Jelly 2と比較して35%高いスコアを示している。項目別に見ると、特にWriting 3.0とPhoto Editing 3.0のスコアが突出して高いことが分かる。一方3DMarkに関してはおおよそJelly 2の2倍といったところで、描画性能が大幅に高まっている。
Geekbench 6では、Multi-Coreの向上幅もさることながら、Single-Coreでダブルスコア以上の結果を残しており、Cortex-A76の性能の高さを裏付けている。このCPU性能の高さがPCMark全体のスコアを引っ張り上げているのだろう。
その一方でGPU(Vulkan)の結果は13%の向上に留まっている。ただGeekbenchのGPUはVulkanの演算性能を計算するもので、3D描画を伴う結果ではない。ゲームプレイなど、3D描画を行なう本来のGPUの処理としては、3DMarkの結果を参考にすべきだ。
いずれにしても、Jelly Starが搭載するHelio G99は、通常利用には十分以上の性能を備えている。一方、3Dゲームの類をプレイするなら快適とは言えないし、小さい画面でチマチマ操作するのは正直快適とは言い難い。しかし480×854ドットという“低解像度”も手伝って、意外にも動く! という印象。実際に「原神」、「Tower of Fantasy」、「NIKKE」、「崩壊:スタートレイル」、「Asphalt 9」などを入れてプレイしてみたが、普通に動作してしまった。
ユニークなシースルー筐体とLEDライティング機能
性能ばかり目が行くJelly Starなのだが、そもそも発表時話題になったのはこのスペック面ではなく、ユニークなシースルー筐体と、LEDライティング機能だろう。
Jelly Starではレッドとブルーの2種類の本体色が用意されているが、いずれもシースルーとなっているのがユニーク。スマートフォンはこれまで星の数ほど発売されているが、シースルー筐体が話題になった製品は少なく、筆者がパッと思いつく製品だとLGの「Fx0」(Firefox OS搭載)やXiaomiの「Mi 8透明探索版」ぐらい(最近だとRedMagic 7/8が一部透明)だ。
Jelly Starの背面はほとんどがシースルーとなっているが、そこから見えるのは基板ではなくアンテナがほとんど。基板フェチにとってみるとやや寂しいが、通信機器であるゆえ仕方のないことだ。それだけこの小さい筐体に大型のアンテナを詰め込んだ、ということの裏返しでもある。ただ、デザイン的には2000年代初頭の電子機器(Macやゲームボーイアドバンス)を彷彿とさせ、少し懐かしい雰囲気に浸ることができた。
今回はレッドとブルーの2色とも送っていただいたのだが、右サイドボタンの色が2モデルで異なるのがユニーク。レッドは電源キーが「レッド」でプログラマブルキーが「ブラック」だが、ブルーは電源キーが「ブルー」でプログラマブルキーが「レッド」だ。ここであえて部品を共通化しないところに少しこだわりを感じる。
デザイン面では、LEDライティング機能も今回新たに加わった要素の1つ。背面に大胆なLEDライティングを配したモデルと言えば「Nothing Phone(1)」が先駆者で、Unihertzも「Luna」でデザインを追従したのだが、LunaはRGB LEDで色をカスタマイズできる点で差別化が図っていた。一方、Jelly Starはホワイトで発光の強さのみ調節可能と、Nothing Phone(1)に近い。
LEDライティングの形状はカメラに沿ってぐるっと回ったU字型と、切り欠きが上に向いたC字の2つ。音楽連動では別々に光るので、上下独立制御となっているようだが、ユーザーがカスタマイズできるのは、着信、通知、充電時のオン/オフと、全体の光量のみ。スケジュールに応じ、深夜など無効にすることもできる。
光量以外の設定はホーム画面のガジェットからでも行なえるようになっている。なお、音楽と連動して光る機能は、内蔵のスピーカーで鳴らしている時のみ光る。ヘッドフォンをつなげた際やミュートにしている際は光らないような仕組みとなっている。
ちなみに、このLEDライティングはカメラのフラッシュとは完全に別制御であるため、カメラ起動前にオンにしておけば、カメラ撮影時の補助光としてフラッシュと併用できる。ただしその場合手がLEDライティングにかぶらないよう持つ工夫が必要だろう。
デザイン上の変更やプロセッサの高性能化、LEDライティングの追加などで、Jelly Starも“大型化”を避けられなかったようで、Jelly 2と比較すると厚みが1~2mmほど増え、重量も10g増えて実測120gの大台に乗った。とはいえ実際手にしてみると、厚みは確かに増したが、重量増はそれほどでもない感じだった。小型のJellyシリーズ魅力をスポイルするほどの増加ではまったくないと感じた。
機能面はほぼJelly 2を踏襲するが、Android 13に進化
このほかJelly 2から引き継いだものとしては、赤外線によるリモコン機能や、プログラマブルキーの自由割り当て機能、背面の指紋センサーや前面カメラによる顔認証も健在で、俊敏なデバイスアンロックが可能。また、最近のスマートフォンでは搭載がめっきりなくなった3.5mmミニジャックも、従来を踏襲している。
加えて、内蔵のジャイロやマイクを使って水平を測ったり、騒音レベルを測ったりするツールボックスも収録されており、ポケットに入る小型ツールとして役立つことができる。
一方でOSは、Android 13が標準で入っていた。Jelly 2は当初Android 10で、後に11へアップグレードされたもののそれっきりだ。Jelly 2Eでは当初より12がプリインストールされている。また、直近に投入したLunaも12だったので、Jelly Starも12かと思いきや、13だったのだ。
13になって大きく変わったのは、パッと見た感じだと通知パネル(上から下にスワイプすることで現れる、ショートカット実行や通知表示機能)の表示や、設定画面の階層の違いぐらいなので、大きく使い勝手が変わるわけではない。
なお、Jelly Starでも標準ではジェスチャーによるナビゲーションがオンになっていた。従来と同様に本体下部に戻る、ホーム、タスク切り替えのタッチボタンがあるのにもかかわらず、である。
最近のスマートフォンはジェスチャー操作が標準のため、タッチボタン式であるJelly Starが異色の存在であるのも確かで、ほかのスマートフォンと操作を共通化させる意味でオンになっているのであろう。しかし、画面下部に決して細くはないバーが表示されてしまうし、せっかくのボタンの意味もスポイルされてしまうので、ここは思い切ってジェスチャー操作をオフにすることをおすすめする。
実はカメラが一番気合い入っている?
小型なのにHelio G99の高性能、LEDライティング、シースルー筐体の三拍子が揃ったJelly Starだが、実は筆者としてはカメラの進化に一番驚いた。センサーにSamsungの1/2.25インチの「ISOCELL GM2」を採用していて、そこそこの画質を実現しているからだ。
そもそも写真はこれまでUnihertzの得意分野ではなかった。Jelly 2はOmniVisionの1,600万画素センサーOV16880を採用していて、センサーサイズは1/3.06インチだった。画像はシャープで好印象だったのだが、いかんせん青みが強めでダイナミックレンジも狭く、ややキツイ印象の写真に仕上がることが多かった。
今なおUnihertzシリーズのラインナップの中で唯一5G通信にしたフラグシップの「TickTock」も、センサーはSamsung「ISOCELL GM1」を採用したものの、写真品質は今ひとつ。同じGM1を採用した「Titan Slim」は、そのTickTockと比較してもチューニングが不十分な印象が否めなかった。
その一方でJelly StarのGM2はこの試作機の段階から「まずまずの画質」という印象だ。もちろん、1/1.33インチや1インチセンサーを搭載した、他社の写真画質を追求したモデルとは比較するまでもないのだが、変に色が強調されたり、コントラストが強かったり、ホワイトバランスが転んだりすることもなく、とても自然な仕上がり。撮影のレスポンスもサクサクで、バシバシ撮ることができる。
また、TickTockやTitan Slimは標準で1,200万画素、ソフトウェアで4,800万画素に出力にする設定が必要だったが、Jelly Starは当初より4,800万画素出力が選択されており、1,200万画素は“逆に”選択するようになった。1,200万画素選択時は4個の0.8μm画素が1個の1.6μm画素としての役割を果たすため感度が向上し、夜間や室内での撮影に適する。
実際に薄曇りでほぼ晴天の屋外での撮影をしてみたが、4,800万画素でも破綻することなくキレイな出力が得られた。が、さすがに100%の比率で1ピクセルずつ吟味していくと、拡大して塗りつぶしたという印象は否めない。というより、100%で眺めるならむしろ1,200万画素のほうが圧倒的に好印象だ。特に4,800万画素への執着がないのであれば、常時1,200万画素の設定をおすすめしておく。
ただ、本体サイズやセンサーサイズを考えれば十二分に健闘しているJelly Starだが、いかんせんセンサーには光学式手ぶれ補正(OIS)機構などが一切ないため、手ぶれには注意したい。屋内はもちろんのこと、明るい屋外でもちょっとした油断でブレてしまう。本体が小さく軽いため余計ブレやすいので、脇を締めて呼吸を整えてから撮影するようにしたい。
また、さすがに夜景は不得意のようなので、基本は日中のスナップ用として捉えて欲しい。
小型好きにも、Jelly 2からの買い替えにも最適
このようにJelly Starは、まさにJelly 2の正統進化であると捉えることができる。本体はわずかに厚くなって10gほど重くなったが、性能や機能向上分を考えれば納得の範囲だ。何より標準ストレージが256GBになったことで、より多くの写真や動画、アプリを入れておくことができるのがうれしい。何を隠そう、microSDカードによる容量拡張もできるので心強い。
唯一日本国内においての懸念点はFeliCaの対応について謳われていない点だ。これだけは代替が効かないので、特にJelly 2で電車に乗っていた人には残念かもしれない。ただ、今はNFCによるクレジットカード決済や、PayPayのようにバーコード/QRコード決済する機会も増えたので、筆者にとってみるとFeliCaの出番が少なくなったのも確かではある(どうしてもというのなら対応スマートウォッチを着けるという手もある)。
高性能と高機能を小型にギュッと凝縮したJelly Star。これまで同社のJellyシリーズが好きだったユーザーにはもちろん響くだろうが、新たなファンも獲得できそうな、そんなスマートフォンだ。
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