白色矮星が引き起こす超新星爆発であるIa型超新星で、電波が初めて観測された。また、この白色矮星の伴星がヘリウムに富む恒星だったことも明らかになった。
【2023年5月22日 国立天文台】
太陽のような比較的軽い星が寿命を迎えると、外層のガスを放出して惑星状星雲を作り、核融合が止まった星の芯は非常に高密度の「白色矮星」となる。この白色矮星が大爆発を起こして星全体が吹き飛ぶ現象が、Ia型超新星だ。
白色矮星は電子の縮退圧という力で自己重力を支えているが、何らかの原因で星の質量が増え、太陽質量の約1.4倍を超えると、自己重力を支えられなくなって収縮し、暴走的な核融合反応が起こって爆発する。爆発直前の質量がどれも同じで、爆発後のピーク光度もほぼ同じと考えられることから、遠い天体までの距離を測る重要な指標として使われ、宇宙の加速膨張が発見されるきっかけにもなった。だが、そもそもなぜ白色矮星の質量が増えるのかについては今も議論があり、決着していない。
白色矮星の質量が増える原因としては、白色矮星が普通の星と連星になっていて、普通の星から白色矮星にガスが流れ込んで降り積もるというモデルと、2個の白色矮星からなる連星が合体するというモデルがある。
前者の場合、普通の星の多くは水素の外層を持っているので、白色矮星に降り積もる物質も水素が主成分になる。しかし、伴星がすでに水素の外層を失った「ヘリウム星」の場合には、降着する物質はヘリウムが主成分になるはずだ。ただし今のところ、ヘリウム星が引き起こしたIa型超新星の観測例はない。
伴星から流れ出した物質は、全てが白色矮星に降り積もるのではなく、両方の星を包む「星周物質」になると考えられる。星周物質の中で白色矮星が超新星爆発を起こすと、星周物質の内部を衝撃波が伝わり、強い電波が放射されると予想されている。だが、これまでの観測では星周物質に包まれたIa型超新星の例はたくさん見つかっているものの、爆発で生じた電波放射が検出されたことはなかった。
スウェーデン・ストックホルム大学のErik Koolさんたちの研究チームは、2020年3月23日におおぐま座の方向で発見された超新星「SN 2020eyj」を様々な望遠鏡で追観測し、そのデータを分析した。
爆発直後のスペクトルからSN 2020eyjはIa型超新星に分類されたが、その後の光度変化が普通のIa型とは異なっていたことから、研究チームでは爆発から131日後にも分光観測を行った。その結果、この超新星がヘリウムを主成分とする星周物質に包まれていることが明らかになった。
さらに、研究チームは英・ジョドレルバンク天文台の電波望遠鏡アレイ「e-MERLIN」でSN 2020eyjを観測し、この超新星からの電波を検出した。Ia型超新星で電波が検出されたのはこれが初めてだ。この電波は超新星爆発の衝撃波が星周物質と相互作用した証拠となる。電波の強さを理論と比較したところ、爆発前の白色矮星には1年あたり太陽質量の0.1%という大量の物質が伴星から降り積もっていたと見積もられた。
これらの観測結果から、研究チームではSN 2020eyjを、ヘリウム星からの質量降着で引き起こされたIa型超新星だと結論づけた。謎に包まれているIa型超新星のメカニズムを解明する上で大きな手がかりとなる発見だ。研究チームでは今後も電波を放つIa型超新星を捜索し、白色矮星が爆発に至る道筋を解明することを目指している。
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