20億光年の彼方から、驚くべきガンマ線バーストが届きました。BOAT、つまり「Brightest Of All Time(観測史上最も明るい)」と称されています。
2022年10月9日、観測史上最も明るいガンマ線バーストが地球に届き、地上で観測されました。電波の波長を追跡観測する天文チームが結成され、このバーストはこれまでの記録のおよそ70倍の明るさだったことが確認されています。
2022年のこのバーストは、当時ギズモードも取り上げていて、天文チームによると1万年に一度の現象だということです。このガンマ線バーストの新しい研究が、3月28日、「アストロフィジカルジャーナル・レターズ」で発表されました。
このバースト(正式にはGRB 221009Aと命名)は「人類の文明が始まって以降に発生したガンマ線バーストとしては、X線もガンマ線もエネルギーは最大規模である可能性が高い」。ルイジアナ州立大学の天体物理学者であり、この研究の共同執筆者のひとりでもあるEric Burns氏が、シドニー大学の声明発表でこう述べています。それを受けて、BOATつまり「Brightest Of All Time(観測史上最も明るい)」という称号を冠せられることになりました。
シドニー大学の声明発表によると、今回のガンマ線バーストはあまりにも明るかったため、宇宙にあるガンマ線観測装置の大半が、その真の光度を測定できなかったといいます。文字どおり、光に目がくらんでしまったわけです。
ガンマ線バーストとは
激しい爆発というと、核兵器とか、星の死を告げるまばゆい超新星を連想する人が多いかもしれません。しかし、宇宙で最も大きい爆発はガンマ線バーストです。ガンマ線バーストは、巨大な星どうしが衝突したり、星が死を迎えてブラックホール化するときに発生すると考えられています。
ガンマ線バーストには短期型と長期型があり、2秒以上観測される場合が長期型とされています。NASAによると、短期型は星の融合やブラックホール化に伴う場合が多く、長期型は星の死滅に伴って発生するのだといいます。
星が死滅するときには、膨大なエネルギーを伴う巨大なジェットとなって物質が噴き出します。ちょうど、パルサーからの噴出にも似たものです。今回のガンマ線バーストもそうですが、こうしたジェットが地球に向かうと、ガンマ線は私たちから見てひときわ明るくなります。
ガンマ線バーストはごく短時間しか続かず、宇宙のどこで発生するかわからないので、天文学者にとっては、最初の明るい爆発より残光を観測するほうがずっと簡単です。今回のバーストの追跡観測は、西オーストラリア州にあるCSIRO(オーストラリア連邦科学産業研究機構)のASKAP望遠鏡を使って行なわれました(ASKAP望遠鏡は、2021年に、銀河系の中心から届いた謎の電波を観測したことがあります)。
最初の爆発から何日かの間に、天の川銀河ではX線によって地球方向に塵が拡散されました。そして、拡散した塵が、バーストの発生した位置から外側に広がる何重かのリングのように見えました。最も近いリングはおよそ1300光年の距離ですが、最も遠いリングは6万1000光年の距離にあり、天の川銀河の反対側になります。
研究チームは、今回のバーストで発生した逆方向の衝撃波も高精度で観測しています。つまり、地球とは逆の方向、バーストの発生源に向かって噴出される物質の波です。
シドニー大学の天文学者であり、現在はarXivに収録されている補足研究の共同執筆者のひとりでもあるJames Leung氏は、同学の声明発表でこう語っています。「我々の観測によって、ガンマ線バースト放射の逆衝撃波モデルについての解明が大きく進みました。我々が観測したエネルギーのピークのゆっくりとした変化を従来のモデルで再現することは、きわめて難しいことが明らかになっています。つまり、宇宙でもこれほど激しい爆発を理解するには、高い精度の新しい理論モデルを開発しなければならないということです」
未知なる世界を覗くのに役立つ
ガンマ線は、遠からず重力波の検出に利用できる可能性もあります。
重力波とは、ブラックホールの融合など大規模な現象によって時空間に生じる波紋のようなものです。重力波は、遠い発生源から光が地球に届く時間をごくわずかに変化させます。現在は、LIGO干渉計やVirgo干渉計といった観測装置を使わないと検出できないくらい、わずかな変化です。
さらに高遠な目標としては、重力波の背景を特定するという期待もあります。重力波が広がる海の全体だと考えればいいでしょう。宇宙の至るところで起こるブラックホールや中性子星の衝突によって縦横に生じるダイナミックな運動です。ガンマ線の発生源をうまく利用できれば、既存のパルサータイミングアレイのようなタイミングアレイも実現できるのではないかと期待している研究者もいます。
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