私事ですが、AVアンプ買い換えます
現用のAVセパレートアンプ、ヤマハ「CX-A5200」、「MX-A5200」を導入したのが約5年前。買い換えが早いと言えば早い。音質的にはほとんど不満を感じていない。サウンドAIによる立体的なサラウンド空間の表現、底力のある低音をしっかりと出すパワーアンプの駆動力などは今でも現役だ。
問題は機能。映像面では8K/60pや4K/120pのパススルー伝送に対応しておらず、PCとの8K接続、PS5との4K/120p接続ができない。ただ、これは試聴でのテストを除けば4K/60p接続で事足りるので大きな問題ではない。問題は、サブウーファーの4個遣いに挑戦したくなってしまったのだ。
サブウーファーの4個というのは、現在のところはデノンとマランツのAVアンプで採用された新機能。サブウーファー出力を4系統備え、接続したスピーカーが「小」または「メイン+LFE」設定時に、サブウーファー4個ならば前後左右でエリアを4つに分割して直近のスピーカーの低音を再生する。空間再現がかなり豊かになるのだ。これに惚れ込んでしまった筆者は、アンプの買い換え自体は昨年秋頃には決意していた。
デノンの「AVR-X3800H」は、自宅でも使わせてもらったが、現有のAVアンプと比べれば音質そのものに差はあるものの、サブウーファー4個遣いの威力が大きかった。ヤマハのAVパワーアンプも併用するとすればAVR-X3800Hへの買い換えでも良いと思うほど気に入っていた。
だが、ご存じの通り、その後デノンとマランツからのAVアンプの新製品ラッシュが始まった。
デノンの「AVR-X4800H」、マランツは新デザインのCINEMAシリーズが発表。しかもとどめには、どちらもハイエンドモデルの発表も控えているというじゃないか。最終的にどれを選ぶにしても、情報が出揃うまで、できれば試聴できるまで、次期AVアンプの選定は保留。とにかくお金を貯めようと決意したのが昨年末。
そして、ようやくデノン「AVC-A1H」とマランツ「AV 10」、「AMP 10」が発表されたのだが、どちらにするかひどく頭を抱えることになる。ここでは、その顛末をお届けしたい。
機能的にはほぼ同じ。異なるのは装備とアンプ設計、そして音
これまでも何度か紹介されているので、おさらい程度にとどめるが、両機の概要を紹介しておこう。
HDMI入力は8K/60p(最大40Gbps)対応。HDR規格はHDR10/HDR10+/HLG/Dolby Vision/DynamicHDRに対応。HDMI ver.2.1のゲーム向けの新機能もALLM、VRR、QFTに対応と万全。
音声機能についても、独自の「HEOS」によるネットワークオーディオ再生やUSBメモリー再生では、PCM最大192kHz/24bit、DSD最大5.6MHzと十分な対応。サラウンド音声規格についても、Dolby Atmos/DTS:X/IMAX Enhanced/Auro-3D/MPEG-H 3D Audio(360 Reality Audio)に対応。HDMI出力端子のARC/eARCにも対応と、最新のAVアンプとして機能面は充実。
自動音場補正などの機能は、標準でAudyssey MultEQ XT32を装備するが、話題の「Dirac Live」にも有料ライセンスの購入で使用が可能になる。筆者が購入を決意した4系統のサブウーファープリアウトは当然備えているし、これらの機能を実現し、最大で15.4chの信号処理を行なう最新のデュアルコアDSP「Griffin Lite XP」を搭載する。
これらは、デノンとマランツともに共通。というのも同じD&Mグループの関連会社でもあり、HEOSをはじめHDMIやデジタル信号処理部などが両社で共有されているのは周知の事実。部材の調達などでも共通部品はまとめて購入することで調達コストを減らすなどの取り組みが行なわれている。そういう意味では兄弟モデルと言ってもいい。どちらを選んでも機能や使い勝手は同等だし、なんならGUIもデザインは異なるがほぼ共通だ。
機能的に同等と考えると、AVC-A1Hが99万円、AV 10とAMP 10は各110万円。倍以上違う価格差がけっこう気にはなる。100万円クラスの製品で高いとか安いという話は論外だが、AVC-A1Hの方がお買い得だよね。という印象はある。
では、どうしてこのような差があるかと言えば、AVC-A1Hは一体型、AV 10とAMP 10はセパレート型という違いが大きい。AVアンプであっても一体型が良いとする人もいれば、セパレート型が良いという人もいる。AVアンプの市場がもっと大きかった頃、デノンが以前にA1というフラッグシップモデルを出していたときは、デノンからA1の名を冠する一体型モデル(AVC-A1HD)とセパレートモデル(AVP-A1HD、POA-A1HD)が発売されていたほどだ。
それにしても、デノンとマランツでうまく一体型とセパレート型に分けて発売したものだ。マランツはCINEMAシリーズでAVアンプを一新して以降、明確に高級路線を選んでいて、同等のデノンのモデルよりも価格は高めの設定だ。そういったそれぞれのブランドの戦略なども含めて、うまく役割を分担しているのだろう。
当然ながら、それ以上に違うのがアンプ設計だ。デノンのAVC-A1Hは15chパワーアンプ内蔵。アンプは同社が積み重ねてきたAB級アンプで電源も大容量トランスを備えるリニア電源。家庭用のドルビーアトモスが当初から9.1.6chの15chプロセッシングを想定していたことから、一体型で15chアンプ内蔵がDolby Atmos時代のAVアンプの到達点だとして開発してきたというストーリーは印象的だ。
一方のマランツのパワーアンプAMP 10は、16chのD級アンプ。D級アンプは高効率で発熱が少ないのでヒートシンクも小型で済むし、電源はスイッチング電源となるから大型のトランスも必要ではない。しかもマランツではHi-Fiアンプも上級機はD級アンプを採用しており、音質的な使いこなしのノウハウもある。電源部に関してはパワー段のスイッチング電源と入力段のリニア電源を組み合わせたハイブリッド仕様だ。
さらにプリのAV 10は、マランツのAVアンプで伝統的に搭載しているアナログプリアンプを全チャンネル独立して備えている。もちろん、同社自慢のアンプモジュール「HDAM」を採用。ピュアオーディオ用のPM-10などと同等の「HDAM-SA3」となっている。同一の基板が19枚並んでいる様子は圧巻。こちらの電源はトロイダルトランスを使ったリニア電源回路だ。このようにセパレートアンプであることを活かし、アンプ回路も電源回路もかなり規模の大きなものになっている。
余談だが、マランツでは15chものAB級アンプをひとつの筐体に収めるのは無理があるとはっきりと言っているくらい、アンプ設計に関する思想は真っ向から対立している。このあたりはグループ会社というよりライバルと言っていいようなバチバチの関係だ。ユーザー的にも、兄弟機のようでいてこれだけ異なっているアンプの方が当然面白い。
出てくる音もまったく異なる。雄大で躍動感あふれるデノンと、色づけのないリアルな音のマランツ 。筆者としても音はとても気になった。それぞれメーカーの試聴室で音を聴かせてもらったし、実は試聴を待ちきれずに販売店が主催する試聴会にも参加した。デジタル信号処理部、D/A変換部などが共通ということもあり、SN比の良さなどは共通するものも感じるが、音の印象はまるで違った。
個人的な印象ではあるが、デノンのAVC-A1Hの方が雄大でドラマチックな音だと感じた。特に低音域のパワーは素晴らしく、一体型のAVアンプとは思えないパワー感だ。それでいて、低音域の解像感とかたくさんの音が重なったときも混濁するようなこともなく、厚みのある音を明瞭に描く。
マランツのAV 10とAMP 10は、同社のHi-Fi用アンプにも通じる色づけの少ないストレートな音だと感じた。エネルギー感やステージの雄大さは十分にあるのだが、あまりそこを誇張するのではなく、ありのままに描く。強度は高いがタイトで精密な描写になるので、きめ細かな部分がより鮮明に感じる。デノンの情報量もかなり優秀だが、このあたりはマランツの物量投入が差に現れたとも感じる。
それぞれに音楽や映画などを聴いたが、どちらも実力は高く、多くの人が“AVアンプの高音質”と聞いて思い浮かべるレベルを超えたところにあるのは間違いない。映画よりも音楽を聴く機会の方が多い人は、ステレオ再生用のアンプを選ぶ方が正しいのは当然だが、この2機種はどちらも、ステレオ再生でもSN比が悪いとか、性能的な不満を感じるようなことはないレベルにある。
ここからは筆者の独断になるが、映画の音を存分に楽しみたいならばデノンが好ましいと感じる。我が家に届いて、いつものスピーカーを鳴らした時の音も予想でき、大満足の自分が思い浮かぶ。映画の音に限れば筆者が求めるものに近いのがデノンのAVC-A1Hだ。それは、無限に湧き出ると感じるような低音の底力と分解能の高さだし、出音の勢いとか迫力だ。そして、空間描写の広がりと定位の良さ。これだけ分厚い音で空間の広がりや響きの余韻も美しく、定位も明瞭というのは驚くほど優秀。
マランツのAV 10とAMP 10は、映画の音の雄大さやスケール感も不足など微塵もないし、空間描写や定位のシャープさは見事だ。色々な要素に分けて細かく採点していけば、マランツの方が各要素でもわずかながら優れるし、総合点ではそれなりの差になるだろう。
ただし、今まで聴いてきた映画の音とはちょっと種類が違う。色づけのないリアル系な音だし、アクション映画を思い切り迫力たっぷりに聴きたいというとき、その気持ちに応えてくれる音とはちょっと違う気がする。AV 10とAMP 10を家で使ったときどんな音になるのかが想像しにくく、それは不安要素でもある。
一方で、全チャンネルの音が揃った感じ、これは音色が同じとかのレベルではなく、出る音のタイミングや鳴り方まで揃って合計で10本以上もあるスピーカーがひとつになった感じに大きな魅力を感じる。さらに言うと、1本のスピーカーに注目しても出音のスピードが速く、しかも低域から高域まで出音が揃った感じがある。無色透明に近い音色で存在感を主張しないタイプの音なのに、実は圧倒的にスピーカーを支配下においている凄みがある。これはデノンでは感じなかったところ。
AVアンプ選びでは“端子”も重要
筆者は購入する製品を選ぶときの最優先の候補は音だ。極端に言えばデザインが気に入らなくても音が良ければ買う。ボディカラーが黒とかシルバーとかゴールドとかもあまり気にしない。基本的にAVアンプの色は黒を好むが、AVC-A1Hを買うならば、シルバーを選ぶと思う。自分はA1=シャンパンゴールドの刷り込みがあるので、シルバーはそれに近い感じで「これだ!」という感覚があったし、黒いA1には違和感さえある。まあ、色だけでも判断は人によって分かれるだろう。
一体型とセパレート型ということで、2台を置けるかという点もある。いずれもかなりの大型筐体なので、ラックに入らないといった問題もあるだろう。製品選びというのはどうやらかなり悩ましいものらしい。
筆者個人の悩ましい問題は入出力端子などの装備だ。現在すでにセパレート型のAVアンプを使っているので、プリアウト出力はすべてバランス出力としている。AVプリ-AVパワー間の接続はデノンのAVC−A1Hならば一体型だから問題ないのだが、フロント用は別のパワーアンプを使っているのでバランス出力が2つ必要になる。
そして、サブウーファーは現状で2台、将来的に4台とする必要があるので、こちらのバランス出力が4つ必要になる。合計でバランス出力が6つ必要だ。
デノンのAVC-A1Hはバランス出力が4つだ。背面を見てもらえばわかるとおり、もはやバランス出力端子を追加する余地はない。このほかにバランス入力も1系統(2つ)あるので、一体型AVアンプとしては十分だ。だが、筆者が想定する使い方だと足りない。プリアウトはアンバランス出力もあるので、それを使えばいいとも思うのだが、バランス接続とアンバランス接続は音質にも違いが出る。両方の音質を確かめた結果からも、できればバランス接続は維持したい。
その点、マランツのAV 10とAMP 10はプリアウトはすべてバランス/アンバランスを備えるし、パワーアンプ入力も同様だからそこで悩む心配はない。しかしながら、デノンのAVC-A1Hの鋳鉄フットは本当に捨てがたい……。
AVアンプ選びでここまで悩んだことはなかった。まさに究極の選択。そしてもちろん、現実的な金額の問題もある。約100万円と約200万円の差は大きい。それを考えると、AVプリだけをマランツAV 10に買い換えるという選択肢も出てくるが、今回はいち早く却下した。AV 10とAMP 10はセットで出てくる音を聴いているし、他のパワーアンプと組み合わせてどうなるかはさらに想像できない。実感としては、パワーアンプの実力としては優れるはずの現有の外部パワーアンプを使わずに、映画では全チャンネルをAMP 10で鳴らした方が、スピーカーがひとつになったかのような一体感が出るかと思っているからだ。
筆者は割と即断即決というか、第一印象だけで決めてしまうことが多く、デザインとカタログスペックだけで選ぶこともある。AVアンプもこれまでいろいろと使ってきたが、ほとんど悩んだことはなかった。だから、こんなに製品選びで悩んだのは初めてだったし、悩み出すとキリがなくて戸惑う。
まあ、こうやって悩むのも今までにない経験だし、嬉しいようなもどかしいような不思議な気分を味わった。最終的には、5月の連休前に決断を下し、今は納品日を待つ状況だ。果たして、筆者はどちらを選ぶのか!? ……近いうちにまた報告させていただきます。
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科学&テクノロジー
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