気候モデルを使った数値計算で、現代とは異なる約160万~120万年前の氷期・間氷期の周期が再現された。この時代の気候変動も惑星などの天文学的影響が大きいことがわかった。
【2023年5月19日 東京大学大気海洋研究所】
地球の公転軌道の形や自転軸の傾きは、太陽や月、他の惑星などの重力の影響で、長い時間をかけて周期的に変化する。こうした長期間の地球の運動の変化(天文学的外力)は、季節変化や緯度による日射量の違いに影響を与えて気候変動を引き起こす。
とくに、地表を覆う「氷床」の大きさは日射量の変化に敏感だ。地球には、大規模な氷床が両半球に存在する「氷河時代」と氷床がない時代があり、現在は約258万年前から始まった氷河時代の最中だ(この氷河時代の始まり以降を新生代第四紀と定義している)。氷河時代には、地表の多くが氷床で覆われる「氷期」と、氷床が少なくなる「間氷期」が繰り返される。現在(第四紀完新世、1万1700年前~)は間氷期に当たる。
現代では、氷期・間氷期は約10万年ごとに繰り返されていて、天文学的な要因で起こっていることがほぼ実証されている。一方、約80万年よりも前の「更新世前期」ではこの周期が約4万年と短かったことが地質学的な記録からわかっている。
これまでの研究では、80万年前より古い時代では地質学的な試料から求まる年代の精度がかなり粗いという問題があった。そのため、更新世前期に氷期・間氷期が4万年周期だった原因にも天文学的外力が関係しているのでは、と考えられてきたものの、定量的にどんな関係があったのかは謎だった。
東京大学大気海洋研究所の渡辺泰士さん(現・気象庁気象研究所)と阿部彩子さんたちの研究チームは、氷期・間氷期の周期が現代ととくに大きく違っていた約160万年前から120万年前の時代に着目し、海洋研究開発機構(JAMSTEC)のスーパーコンピューター「地球シミュレータ」を使って気候モデルにもとづく大規模シミュレーションを行い、過去の気候変化に天文学的外力がどんな役割を果たしていたかを調べた。
その結果、当時起こっていた4万年周期の氷期・間氷期サイクルをよく再現することに成功した。
シミュレーション結果を詳しく分析した結果、地球の運動の変化が更新世前期の気候変動をもたらす仕組みについて、次のことがわかった。
- 氷期・間氷期の周期は、地球の「自転軸の傾き」と「公転軌道の離心率(=楕円の度合い)」という2つの変動幅のわずかな違いによって決まる。この2つの要因の変動幅が小さくなると、現代のような10万年周期の氷期・間氷期サイクルが出現しやすくなる。
- 氷期が終わって間氷期に移るタイミングは、主に「気候歳差」(公転軌道のどこで地球が夏至を迎えるか)によって決まる。
- 間氷期の長さは、自転軸の傾きと気候歳差が変化するタイミングの前後関係で決まる。
3について詳しくいうと、地球の自転軸の傾きが変わると日射量は増減し、気候歳差が変わっても日射量は増減するのだが、自転軸の変化が生み出す日射量の「波」と気候歳差が生み出す日射量の「波」のうち、前者の方が後者よりも先にピークを迎える場合には、間氷期が短く、氷期が長くなる。逆に、気候歳差による波の方が自転軸による波よりも先に日射量のピークを迎える場合には、間氷期が長く、氷期が短くなる。
つまり、自転軸の傾きと気候歳差の「変化のタイミング」の前後関係によって、更新世初期の4万年周期のサイクルは「間氷期が長い場合/中間的な場合/間氷期が短い場合」の3種類に分類できることが明らかになった。
また、4万年周期だった時代の気候変動の振幅は、大気中の二酸化炭素濃度にはほとんど依存しないこともわかった。現代の10万年周期の氷期・間氷期サイクルに比べて、更新世前期には二酸化炭素が果たす役割がずっと小さかったようだ。
さらに、自転軸の傾き・気候歳差・軌道の離心率の条件が重なると、北米の氷床がわずか1万年で現在のカナダの大部分を覆うほどの面積に達することもわかった。
「最新データに基づいた数値シミュレーションから、現代のみならず100万年以上前の過去でも、他の惑星や月が地球の気候に大きな影響(外力)を与えていたことが示されました。この結果は地球科学的に意義深いだけでなく、その外力の計算精度を更に高め、より古い時代の気候研究に適用させる動機を天文学に与えました。両者の間に相乗効果を生んだと言えます」(国立天文台 伊藤孝士さん)。
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