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このコーナーでは、テクノロジーの最新研究を紹介するWebメディア「Seamless」を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。
明治大学宮下研究室の研究チームが発表した「ノッチがポインティングの操作時間に与える影響」は、MacBook Pro(2021)に搭載するノッチがマウス操作に与える影響を検証した論文だ。ノッチによって、マウスの操作時間とエラー率に与える影響を調査した。
MacBook Pro(2021)にはディスプレイの上端中央にノッチ(描画が行われない黒い領域)が配置されている。21年の出来事であり、一部で話題になったことから記憶に残っている人もいるだろう。このノッチ、見た目が目障りなだけでなく、メニューバーを隠したり、マウス操作のカーソルを隠したりして実用的にも邪魔なタイミングが発生する。
そこで今回は画面上端にあるターゲットから、同じく画面上端にある他のターゲットを選択する場合(例えば、メニューバーの「ファイル」項目を選択後、「検索」項目を選択する場合)、ノッチが操作時間に与える影響やエラー率を調査した。
実験はMacBook Proを使用するのではなく、ノッチ領域(実寸)とターゲット領域を示した専用システムを作成してWindows搭載PCで行った。参加者は12人、全て右利きでマウスを操作する。
参加者には、開始ターゲット(下記画像ではピンクもしくは赤領域)をクリックしてもらい、移動して終了ターゲット(下記画像では緑領域)をクリックしてもらう。できるかぎり速く正確にタスクを行ってもらうよう要求し、終了ターゲットをクリックしたら成功、それ以外は失敗(エラー)とした。
条件は、開始ターゲットと終了ターゲット間の内側にノッチが配置された条件と、外側に設置された条件の2種類を用意した。開始ターゲットから終了ターゲットまでの距離も、100mmと200mmの2種類の条件を用意した。また終了ターゲットの領域の幅や、ノッチから終了ターゲットまでの距離も複数用意した。
このテストを1人当たり1200回ランダムに実施。1万4400回の計測データが得られた。分析した結果、エラーとなった回数は563回(3.91%)であった。
エラーを除いた1万3837回を分析した結果、ノッチがない条件よりもノッチが内側にある条件の方が約11.8%操作時間が増加した。これはノッチによってカーソルが隠されないようにするためノッチを回避する経路を取ったり、余分にマウスを大きく操作したりすることで経路が長くなったのが影響していると考えられる。
ノッチがない条件よりもノッチが外側にある条件の方が約4.93%操作時間が増加した。これはカーソルの減速を早めに行う戦略をとった参加者による影響だと考えられる。
さらに、ノッチが外側にあるよりも内側にある方が操作時間が増加する傾向が観測された。また、ノッチと終了ターゲットの距離が近づくほど操作時間が増加する傾向が観測された。
これらの結果から、ノッチが配置されるとマウスの操作時間が増加することを示唆した。またノッチとターゲットの距離が近くなるにつれて操作時間が増加することから、ノッチ付近にターゲットを配置すると操作時間を増加させてしまうことを示唆した。
研究チームは、Windows 11にアップグレードしたことによって画面の左下角にあったスタートボタンが画面中央に変更された位置関係によるマウス操作への影響も調査し結果を報告している。
出典および画像クレジット: 大塲 洋介, 宮下 芳明. ノッチがポインティングの操作時間に与える影響. 情報処理学会, 研究報告ヒューマンコンピュータインタラクション(HCI), 2022-HCI-199, 2, 1 - 8, 2022-08-15
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