小惑星リュウグウの粒子の分析で、含水鉱物の中に有機物が複雑に混ざり込んだ構造が見つかった。こうした構造に守られて有機物が地球にもたらされたのかもしれない。
【2022年8月22日 JAXA】
「はやぶさ2」が2020年に地球に持ち帰った小惑星リュウグウの粒子は、大きさや質量などの基本情報がカタログ化された後、「はやぶさ2」プロジェクトの初期分析6チームと、より高度な化学的情報をカタログに記載する「フェーズ2(第2段階)キュレーション」を行う国内機関の2チームによって現在分析が行われている。
これらのチームのうち、フェーズ2キュレーションを担当している海洋研究開発機構(JAMSTEC)高知コア研究所の伊藤元雄さんを中心とするグループ(フェーズ2高知チーム)の分析結果が新たに公表された。
フェーズ2高知チームでは、直径1-4mmの8個の粒子について、まず兵庫県の大型放射光施設「SPring-8」のビームを利用して各粒子のX線CT撮影を行った。これで明らかになった各粒子の内部構造を元に、粒子の表面や内部の非常に狭い領域に存在する分子や同位体比などを、二次イオン質量分析計や走査型X線顕微鏡でピンポイントに調べた。
その結果、リュウグウ粒子の内部には粒の粗い含水ケイ酸塩や炭酸塩、酸化鉄、硫化物など、液体の水が存在する環境で作られる鉱物が確認された。これはリュウグウ試料を分析している他の研究チームの報告ともよく合う結果で、リュウグウの母天体に含まれていた氷が溶けて液体の水となり、これらの鉱物ができたと考えられる。
また、リュウグウ試料に含まれる窒素15と重水素の存在量を調べたところ、地球の岩石などに比べてこれらの同位体を多く含んでいることが明らかになった。これは宇宙塵や彗星など、太陽系の外縁部に由来する物質によく見られる特徴だ。このことから、リュウグウ粒子を形づくる物質は太陽系の外縁部でできた後、現在のリュウグウの位置まで移動したのではないかと研究チームは考えている。
さらに、リュウグウ粒子に多く含まれる粗粒の含水ケイ酸塩鉱物は、メタンやエチレンなど、ベンゼン環を持たない「脂肪族炭化水素」を豊富に含む有機物が複雑に混ざった組織になっていることもわかった。このような構造は水が存在する環境の下で有機物と鉱物が反応したことを示す直接的な証拠だが、これまで隕石では確認されたことがなく、世界初の発見だ。
一般に、脂肪族炭化水素は約30℃以上の温度になると分解してしまうため、リュウグウの物質は30℃より低い温度しか経験しておらず、熱の影響をあまり受けないまま始原的な状態を保っている可能性が高い。
今回発見されたような、粗粒の層状ケイ酸塩の中に閉じ込められた有機物は通常より分解されにくいと考えられるため、こうした鉱物が有機物を守る一種の「ゆりかご」となって、地球に水や有機物をもたらしたのかもしれないと研究チームでは推定している。
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