とあるPCゲームを年間1,000時間はプレイしている。そのゲームでは通常、左手はWASDボタン周辺で右手はマウスを動かすだけで遊べるのだが、筆者はゲーム内で「//rep 1 42」や「//set 15%1,5%1:5,40%252:7,40%159:9」といった呪文のようなコマンドを多用している。そのため、コマンドを入力するたびに右手をキーボードに移動する必要が生じてしまい、通常のデバイスでは作業効率が悪くなってしまう。
そんなわけで、右手の移動を最小限に抑えるために使用しているのが多ボタンマウスだ。多ボタンマウスとは、その名の通り左右ボタン以外に多くのボタンが搭載されているマウスで、筆者はロジクールの「G600」という、側面に12個のボタンがあるマウスを長年愛用している。このマウスを使用することで、通常のマウスと比べて作業効率がおよそ3倍は向上している。
実はこのG600シリーズ、ロジクールの公式サイトには製品ページがなくなっているなどで、生産終了がささやかれており、故障すると買い替えができない可能性が出ている。
G600がなくなれば、1つのゲームに年間3,000時間も費やすことになり、生活はたちまち破綻してしまう。本記事では、筆者が今後も健康で文化的な生活を送るために、G600と同様に使えそうな多ボタンマウスを探して試し、その使用感をご紹介する。
G600との比較
G600と比較するうえでまず取りあげるべきはボタン数だろう。G600は20ボタンでM990は24ボタンと、M990のほうが4つボタンが多い。G600ではホイールにも左右クリックがあり、マウス上面のボタン数は両方とも同じになるので、配置はともかくボタン数だけをみればサイドボタン数が多少異なるだけと言える。また、サイドボタンに注目すると、M990のボタンは大きく数が多いこともあって、G600に慣れていると多少の押しにくさを感じる。
本体サイズについては、G600が75×118×41mm(同)と数値上はM990とあまり差がないが、実際に触ってみて比較すると、M990は数値以上に細長く感じた。ただ、左右ボタンに指が届かないほど長いわけではないので、Gシフトボタンがない分、M990のほうが手に馴染みやすい形状をしていると思われる。
また、重量に関してマウスのみの重さを計測したところ、G600は約138g、M990は約148gで、M990が約10g重い。しかしこれはM990に重りを8つすべて搭載したときの重量なので、重りを4つにするとほぼ同じ重さになる。好みの重量にある程度調整できるのはM990の利点だろう。
このほか、マウスの手触りについても異なり、G600が滑らかで、M990はマットな手触りとなっている。加えてM990では、G600のGシフトボタンにあたる位置にゴム素材が貼られており、グリップ力が高くなっている。
M990をG600化してみる
専用ソフトを用いて、M990をG600のように使えるようにカスタマイズしてみた。ボタンへのマクロを割り当てやDPI設定はG600と同様に簡単に設定できたが、難しかったのが、M990にはない、Gシフトボタン機能をどのようにして再現するかであった。
Gシフトボタンとは、これを押している間のみ、通常時コマンド入力のボタンがテンキー入力のボタンになるといったように、各ボタンの入力を一時的に切り替えることができるボタンである。このボタンの存在により、各ボタンには2つの機能を割り当てることができる。
G600の初期設定だと、右クリックの外側のボタンにGシフト機能が割り当てられているが、どのボタンにも割り当てられる。
考えた結果、M990ではゲームおよび仕事中ではそれぞれ2つのモードのみを使用することにし、G600のGシフトボタンとは位置が異なるが、火災のボタンにモード変更機能を割り当てることで、「Gシフトボタンっぽいボタン」の作成に成功した。
もう少し具体的に説明すると、たとえばゲームを遊んでいるときは、各種コマンドをボタンに割り当てたモード1と主にテンキーが入力できるようになっているモード2のみを使用し、モード1で火災のボタンを押すとモード2へ、モード2で押すとモード1へ切り替わるようにM990をカスタマイズした。
なお、今回の設定では、Gシフトボタンのように押している間だけモードが切り替わるわけではないので、現在マウスがどちらのモードになっているのかが判別しにくくなっている。なので、各モードでマウスの発光色を変更することで、比較的モードの判別をしやすくした。
ゲームでM990を使ってみた
G600化したM990をさっそくゲームで使ってみた。5時間ほど使ってみた感想としては「一応使えるが、かなりの慣れが必要」だった。
まず、第一に疑似的Gシフトボタンについてだが、やはり完璧な再現には至らなかった。Gシフトボタンであれば、押している間だけ切り替わり離すと元のモードに戻るのだが、今回のM990だと、「モード1→切り替えボタンを押す→モード2→切り替えボタンを押す→モード1」といった切り替わりになり、切り替えボタンを2回押す必要が生じる。通常時なら問題ないが、ゲームのプレイ中となると切り替えボタンを押し忘れることによる入力ミスが多発した。モード2での入力が済んだら切り替えボタンを押してモード1に変更する、ということを体に叩き込まなければ、スムーズな運用は難しいだろう。
ちなみに、G600化を目指す過程で「モード2でテンキー入力するボタンすべてにモード変更機能もあわせて割り当てれば、モード2で切り替えボタンを押す必要がなくなるのではないか」と考えて試行錯誤してみたが、検証した限りではモード変更とテンキー入力の両方を割り当てることはできなかった。
次に、発光パターンの変化によるモードの判別について。実際に使ってみるまで気づいていなかったが、ゲーム時はマウスを基本見ないので、この判別方法には無理があった。部屋の電気を消してプレイすればマウスの発光が目に入るかもしれないが不健康なので、モード2のみDPIを極端に下げるのが、体にモード変更が慣れるまでの応急処置としては良いかもしれない。
そして、サイドボタンについてだが、2つのモードをあわせて32のサイドボタンの機能を覚えるのはかなり難易度が高かった。G600のときはそこまで大変ではなかったが、4つボタンが増えるだけでここまで分からなくなるのかと衝撃を覚えた。しかしこれはあくまでマウスというより、筆者のスペックの問題だと思われるので、脳が柔軟そうな中高生などであればすんなり使いこなせるかもしれない。
このほか、モード切り替えについては、発光パターンの切り替えには数秒ほど時間がかかるが、ボタンの切り替えは即座に行なわれており、G600と同様に運用できた。最初はボタンの切り替えも時間がかかると思い、これではゲームでは使えないとハラハラしたが、杞憂だった。
仕事でもM990を使ってみた
仕事用としてモード3および4を用意し、記事を作る際にM990を使ってみた。感想としては「自分の用途であれば、ここまでの多ボタンマウスは必要ない」であった。
仕事用としてEnterやコピー/ペースト、全選択などをボタンに割り当ててみたものの、よくよく考えると勤務時に使うショートカットは大抵左手で入力しているのと、そもそも勤務時は両手が大体キーボードにいるのとで、マウスにボタンを多く割り当ててもあまり使用しなかった。
しかし、これで「仕事ではM990はいらない」と結論付けるのはあまりにも乱暴である。なので筆者は、120の機能を割り当てられる特徴を大いに活用し、アルファベットや記号などのキーをサイドボタンに割り当ててマウスのみで文章が書けるようにM990をカスタマイズ。実際にマウスのみで文章を書いてみた。
試しにこの段落のみ、すべての文章をマウスのみで入力してみた。慣れないこともあり非常に大変で時間もかかった。しかし、無理ではないことも分かったので、絶対に右手をマウスから離したくないという人がもしいたら、このマウスをお勧めしたい。
今回はお試しということで1番のボタンに「A」2番に「B」といった安直なボタンの割り当てをしたのだが、たとえば「T」がアルファベットの何番目かということを筆者はこれまでの人生で考えたこともなかったので、この割り当てのマウスのみで文章を書くのは頭がおかしくなりそうなくらい難易度が高かった。そして同時に、この世にキーボードというPCで文章を書くためのデバイスがあることに心から感謝した。
初めての多ボタンマウスならアリ......?
M990は、(数日使った限りでは)多ボタンマウスとしてはそこまでの不満がなく、良いマウスだと思った。だが、G600に慣れ親しんできた筆者としては、(特にソフト面において)使用中に違和感がありストレスを感じてしまうことは度々あった。
とはいえ、G600よりボタンが多いのはそれだけ可能性を秘めているわけで、スムーズに使用できるようになれば、年間のゲームにあてる時間が800時間ほどになるかもしれない......そうなることを願って、筆者は今後もこのマウスを継続して使っていくつもりだ。
結論として、M990は初めての多ボタンマウスとして買うのであれば、価格的にも形状的にもG600よりお勧めできる。ただ、G600を持っている方でもこのマウスを使うことで、Gシフトボタンに感謝するだろうし、文章をマウスだけで書いたことがない方はこのマウスによって普段使っているキーボードに感謝するに違いない。そういった、何気ない日々が実は幸せだったといったような気持ちを感じたい方も、是非このマウスを一度手に取ってみてはいかがだろうか。
からの記事と詳細 ( 「火災ボタン」搭載の多ボタンマウスを健全に生きるために買ってみた - PC Watch )
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