オーディオ向けに進化を続ける骨伝導
骨伝導技術は補聴器向けの技術として発達してきた歴史を持つが、昨今は新しいオーディオ用デバイスとして認知が高まって来ている。最大の特徴は、耳を塞がないので周囲の音と音楽を自然にミックスできることである。
常時身につけて音楽を聴いていても、周囲に迷惑をかけるわけでもなく、日常生活に支障が出るわけでもない、イヤフォンと違って装着感に負担がないということで、アフターコロナ以降あらためて注目が集まっているところだ。
2015年創業のBoCoは、2020年に世界初となる骨伝導完全ワイヤレスイヤフォン「PEACE TW-1」をリリースし、話題となった。
そして今年4月、その第2弾として「PEACE SS-1」のクラウドファンディングを開始した。価格は1,000台限定で23%オフの16,800円となる早割などの支援プランを用意している。発送開始は7月中旬予定。
装着感や音質などの進化点も大きい最新モデルを、さっそく試してみた。
オーガニック形状でフィット感向上
BoCoの完全ワイヤレスは、耳たぶを挟むように装着する「イヤーカフ型」と呼ばれる構造になっている。耳穴に近い方に振動子、耳の後ろ側にバッテリーやSoCなどの本体機能部があり、その間をフックで繋ぐといった作りだ。2世代目となるPEACE SS-1は、構造的には初代と同じだが、デザイン面では大きく異なっている。カラーはブラックとホワイトがあり、今回はブラックをお借りしている。
前作TW-1は円筒径の組み合わせで作られており、これはこれで面白いデザインだったが、SS-1は全体的に丸みを帯びた形状になっている。特に本体側の形状がオーガニックになったことで、肌への当たりが柔らかくなった。
また肌に当たる部分にはシリコン素材を配置することで、フィット感も増している。カフ部分はチタンを芯材につかうことで、装着時には開きやすいが、装着後はしっかりホールドする構造となっている。
サイズも少し小さくなり、重量も片側7gと、前作から2g軽量化された。また前モデルは2つのシーソーボタンがあり、電源ONやペアリングを操作していたが、SS-1は感圧式ボタンを採用した。誤動作を避けるため、タッチセンサーではなく感圧式にしたのがポイントである。ドライバ部と本体部を同時に、耳を挟むようにタップする。
骨伝導用のアクチュエーターも最新モデルとなっている。イヤフォン用ドライバも一種の振動子ではあるが、振動させるのはあくまでも空気であり、ドライバ本体は振動しないように固定するのが普通だ。
一方骨伝導アクチュエーターは、アクチュエーター本体が骨を震わせるほどに大きく振動する必要がある。そのためある程度の質量が必要になるが、質量が大きくなると、電圧がゼロになっても余韻で振動してしまう。要するに重いので、動かすのをやめてもビヨンビヨンするわけである。公式サイトには「インパルス応答の収束が早い」と説明されているが、最新アクチュエーターはこのビヨンビヨンが収まるのが早い、と言っているわけである。
逆にインパルスに対して収束が遅いことを利用したのが、アナログ時代のプレートエコー(リバーブ)である。つまり収束が遅いと余韻が伸びることになり、次に来た音と混ざる事になる。当然音楽再生では、電圧変化に対してリニアに反応していかないと、明瞭度が下がり、切れの悪い音になる。
物理ボタンの廃止により、挙動も少し変わっている。電源は、ケースへの脱着で自動的にON・OFFが切り替わる。ペアリングは、繋がるデバイスが何も見つからない場合に、自動的にペアリングモードに移行するようになった。マルチペアリングは最大4台まで。ボディのIPX7の防水仕様は変わらずだが、物理ボタンがなくなったことで、より安心できる作りとなった。
SoCにはQualcommの「QCC3040」を採用し、コーデックはSBCとaptX Adaptiveにも対応した。TW-1がSBCのみだった点で音質的な課題もあったが、音質向上も期待できる。
ケースも本体デザインに合わせて、卵型となっている。連続再生時間も向上し、連続再生時間はTW-1より約3時間長い約8時間。ケースとの併用時は2倍の最大約24時間。
よりバランスの取れた音質へ
ではまず、更新されたアクチュエーターの音質を確認してみよう。これはTW-1の時にもお断わりしてあるが、本機は耳への装着位置によってかなり音質が変わる。アクチュエーターが耳穴に近づくほど音量が上がり、低域特性が良くなるが、耳たぶの大きさや形状は個人差が大きく、どれぐらい深く挟み込めるかの限界が個人によって異なる。それを踏まえた上で、筆者の耳たぶのサイズでの評価となることをご了承いただきたい。
前モデルのTW-1では、低音がほとんど出ず、音楽を聴くとベースのマイナスワントラックのように聴こえたものだが、本機SS-1ではベース音も、その輪郭は追えるといった程度に改善している。音楽的なバランスから言えば、もう少し低音が欲しいところではあるが、骨伝導の課題をかなりクリアしているように思う。
特筆すべきは音の歯切れの良さで、バスドラムのアタックは非常によく感じるようになった。ただ振動量が大きいので、音量を上げると多少くすぐったい感じもある。
中高域の伸びの良さは相変わらずで、ボーカルのリアリティもかなり上がっている。ボサノヴァなどのダウナーなボーカルものとの相性がいい。TW-1で感じられた、中高音域の箱鳴りのようなクセがなくなり、音楽的なバランスがかなり良くなっている。高域の表現に耳当たりのいいサラサラ感があり、無理なく聴かせるのが本アクチュエーターの特徴だろう。
骨伝導イヤフォンとしては破格の低音表現であっと言わせたShokzの「OpenRun Pro」と比較すると、OpenRun Proはそれほど高域特性が伸びておらず、むしろ全体的には中低音寄りのサウンドとなっている。一般的なイヤフォンに近い聞こえ方がするという点ではまさしく驚くべき技術だ。
ただ、骨伝導らしい高音の輝きという点では、SS-1に軍配を上げて良いだろう。
装着感という点では、本体重量が軽くなったこともあり、耳たぶが重い感じもなくなった。ジョギングしても位置がズレる事もなく、IPX7の防水性能と相まって、フィットネスには使いやすいだろう。
ノイズキャンセリング集音もOK
続いて通話性能をテスト。昨今イヤフォンは日常使いにフォーカスされており、その中には「聴く」だけでなく「しゃべる」も含まれるようになった。通話や音声チャット、リモート会議も全部これで、というわけである。
テストしたのは、いつものショッピングモールの吹きぬけ近くである。比較したのは、ShokzのOpenRun ProとTW-1だ。
OpenRun ProをはじめとするShokzの骨伝導イヤフォンは、通話においても相手から聞き取りやすいとして、評価が高い。OpenCommという会議専門モデルも登場したぐらいである。これまでは室内でのリモート会議でしかテストしていなかったが、騒音の中で試してみると、ノイズキャンセリングもしっかり効いており、音質は低域までしっかり出ている。相手もイヤフォンやヘッドフォンをしている場合は、肉声に近い音質で聞こえるため、長時間の会議でも疲れにくい音質だろう。
TW-1は、ノイズキャンセリングが効いておらず、周囲のノイズもそのまま入ってくる。ただ音声の明瞭度は高く、小声でもハキハキした感じに集音できる。静かなところでの通話では、聞き取りやすさの点で高評価となるだろう。周囲がうるさい場所でも、通話音声は明瞭なので使えないわけではないが、長時間の使用は相手が厳しいかもしれない。
SS-1は、ノイズキャンセリングがきちんと効いており、シュワシュワ感も感じられない。音声の明瞭度はTW-1より若干後退するが、聞き取りやすさはある。特性としては、ちょうどTW-1とOpenRun Proの中間ぐらいだろう。ただ、同じ条件で集音したのだが、音声レベルが他のイヤフォンより若干低い。アプリ側で入力レベルを調整する必要があるかもしれない。
総論
世界初の骨伝導で完全ワイヤレスを実現したTW-1から2年が経過するが、未だに競合製品が出てきていない状況にある。現在骨伝導ではShokzのようなヘッドバンド型が多いのは、伝える骨は耳骨近くの頭蓋骨が良いという判断と、骨に対してある程度アクチュエーターを押しつけないと音量が出ないというところからだろう。
BoCoのように耳たぶに振動を与える方式は、技術的には難易度が高いのだろうが、2年かけて技術を成熟させて第2弾をリリースしたことで、骨伝導の可能性をまた一段大きく広げたことになる。
この方式は明瞭度が高く、装着にも圧迫感がないというメリットがある一方で、音楽特性としては低域の出力に難があった。これを少しずつクリアしつつあるのに加え、中高音域のクセをなくしてすっきりした音質に仕上げたことで、より普段使いで満足度が高い製品に仕上げてきた。
骨伝導以外でも、昨今のイヤフォン業界ではambieやソニーLinkBuds、Victorのnearphonesのように、耳穴を塞がない方式に注目が集まっている。今年になって、少しずつ出勤や外出も戻ってきているところではあるが、人々の意識は「遮断する」から「生活音もモニターする」に変わってきている。
今後は外音と音楽を両立する方向で、様々な製品の登場が続くかもしれない。
からの記事と詳細 ( 進化した“骨伝導完全ワイヤレス”PEACE「SS-1」。Shokzとも比較 - AV Watch )
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科学&テクノロジー
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