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Sunday, August 15, 2021

火星探査車「パーサヴィアランス」が採取したサンプルが“空っぽ”だったことの意味 - WIRED.jp

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米航空宇宙局(NASA)の火星探査車「Perseverance(パーサヴィアランス)」が、地球外生命体の探索における新たなマイルストーンを達成すべく動いた。火星の岩石を掘削し、コアサンプルの採取を試みたのだ。

そのコアサンプルは最終的に、地球に送り返されて研究されることになっていた。8月6日早朝(米国時間)にNASAの科学者が受信したデータは、希望がもてるものだった。ロボットは確かに“赤い惑星”に穴を開けており、掘削によってできた穴の周囲に粉塵が積もっている様子が写真で確認できたのである。

NASAのジェット推進研究所(JPL)でサンプルの採取と格納を担当するチーフエンジニアのルイーズ・ジャンドゥラは、サンプル採取の試みについて8月11日のブログ投稿で次のように書いている。「その日の朝は、それから激しい感情の浮き沈みを体験することになりました」

受診したデータは、パーサヴィアランスがサンプルチューブを車体に移動して保管したことを示していた。ところが実際には、サンプルチューブは空だったのである。

「この現実を受け入れるまで数分かかりました。しかし、チームはすぐに調査モードに切り替わりました」と、ジャンドゥラは書いている。「それがわたしたちの仕事です。それが科学と工学の基本なのです」

「コア失踪事件」の原因

今回のミッション「Mars 2020」の副プロジェクト科学者のケイティ・スタック・モーガンは、今回の問題を「コア失踪事件」と呼ぶ。そしてチームは、どこで狂いが生じたのか推測する上で役立つヒントを、いくつか掴んでいる。

「サンプル格納プロセスの実施には成功しましたが、チューブの中にはコアが入っていません」と、スタック・モーガンは言う。「すべての手順を完璧に成功させたにもかかわらず、チューブの中に岩石も何も入っていないなんて、いったいどういうことなのでしょうか?」

もちろん、パーサヴィアランスがコアサンプルを単に落としたことも考えられる。だが、地表に壊れたコアサンプルの破片はなかった。またスタック・モーガンによると、チューブは「非常にきれいな状態で、ほこりもついていないので、おそらくチューブには何も取り込まれなかったのではないか」と考えられる。

NASAの科学者たちは、コアサンプルは掘削過程で粉砕されてしまい、穴の周りに散らばったと考えている。

「そう考えれば、穴の中にサンプルの破片がない理由も、地面に破片が落ちていない理由も説明がつきます。サンプルは基本的には削りくずになってしまったということなのです」と、スタック・モーガンは言う。「それから、このようなことが起きた理由を考え始めました。というのも、エンジニアが打ち上げ前に非常に幅広い種類の岩石でコア採取の掘削を試験したときには、このようなふるまいは見られなかったからです」

火星の地質学史を知る重要な手がかり

パーサヴィアランスは、着陸地点である火星の「ジェゼロ・クレーター」の周囲で掘削を進めている。ここは過去に湖があった場所で、古代の微生物の生息地であった可能性がある。なお、同機は自律飛行する火星ヘリコプター「インジェニュイティ」の偵察を頼りに掘削地点を探してきた。

パーサヴィアランスは地表の粉塵を採取するのではなく、岩石に深く穴を掘ることで、火星の地質学史を知る上で重要な手がかりを提供することになる。12年に火星に降り立った探査機「キュリオシティ」も深く穴を掘ったが、コアの採取ではなく岩石を粉砕するように設計されていた。

NASAのエンジニアは今回、岩石を形成された状態のまま観察できるサンプルを求めている。岩石を分析して生命の痕跡を調べることができるからだ。例えば、一部の微生物は特徴的な鉱物を残すことで知られている。

パーサヴィアランスの場合、掘削プロセスは車体内部に装備されたACA(Adaptive Caching Assembly)というシステムから始まる。ここでロボットアームが保管庫からチューブを取り出し、パーサヴィアランスのすべてのコアリングビット(コア採取の掘削に使うドリルビット)を保管する容器である「ビットカルーセル」に挿入する。次にビットカルーセルが回転し、実験室の試験管とほぼ同じ形状とサイズのチューブを、実際に掘削をする長さ7フィート(約2.1m)のアームに渡す。

「コアリングビットを手に取ると、中にチューブが入っています」と、パーサヴィアランスの地表ミッションマネージャーであるジェシカ・サミュエルズは、最初の掘削を試みる前のインタヴューで説明している。「これで実際にサンプルを採取する準備が整うのです」

大型ロボットアームに取り付けられたドリルは岩石を手に入れるために、リンゴの芯抜きのように回転しながら地面に打ち込まれていく。その間ずっとパーサヴィアランスは掘削の進行状況を検知している。検知データはアルゴリズムに反映され、例えば打ち込みの強弱などを自動調整する。

ロボットが十分に深くまで掘削すると、岩石サンプルを折り取る必要があるのでドリルを移動する。「コアリングビット内のチューブを横方向にずらし、コアサンプルを折り取るのです」と、サミュエルズは言う。

すべて自動のサンプル収集

理想的には、ロボットは火星の岩石からチョーク大の破片を採取する。パーサヴィアランスはこのプロセスをさらに何度も繰り返し、ジェゼロ・クレーターから複数のサンプルを採取する。ちょうど血液サンプルを採取するようなものだと考えてほしい。採血の際には血液でいっぱいになったチューブを交換するが、パーサヴィアランスは容器が岩石でいっぱいになると容器を交換するというわけだ。

チューブがいっぱいになると、掘削アームはそのチューブをACA内のビットカルーセルに戻す。続いて小型アームがそのサンプルを取り出し、さまざまなステーションに順に移動していく。例えば、サンプルの体積測定のためのプローブが装備されたステーションや、チューブの写真を撮るカメラが装備されたステーションなどがある。

次に、チューブを密閉するためのふたが落とされる機械に移動し、さらに密閉を完了する別のステーションへと移動する。すべて問題がないことを確認するために、カメラがサンプルの写真をさらに数枚撮影し、最後にロボット内部の一時的な保管場所に送り返される。

ロボットは、火星を移動しながら約30個のサンプルを収集する予定だ。「サンプルチューブを車体に保管して走り回り、複数のチューブが集まったら火星の地表の保管庫に移します」と、サミュエルズは説明する。この保管庫に入れられたチューブは、将来の火星サンプル回収ミッションで地球に運ばれることになる。

「科学チームは、火星についてさまざまな情報を得られる堆積岩や火成岩など、あらゆる種類の岩石を探し求めています」と、サミュエルズは言う。サンプル回収ミッションの探査機が帰還したら、さまざまな機関の科学者が“赤い惑星”の地質を研究できるようになる。

このサンプル採取・格納作業を、ロボットは自律的にこなす。類似する探査機と同じようにパーサヴィアランスは、地球上の人間の操作で火星中を絶えず移動することはできない。地球と火星との間では、無線信号の伝達に20分もかかるからだ。パーサヴィアランスは、いったん設定したらほとんどのことは自動でこなす機械なのである。

「サンプルチューブを保管場所から取り出すところから、サンプル取得のすべてのプロセス、そして保管場所に戻されるところまで、人の手は一切必要ありません」と、サミュエルズは語る。「そのすべてが自律動作なのです」

心が躍るような発見の可能性

最初の掘削の試みは、計画通りには進まなかった。だが、最初は問題と思われたものが、実は火星の地質に関する重要な手がかりをもたらすかもしれない。

スタック・モーガンをはじめとするNASAの科学者たちは掘削を実施するまで、岩石は堆積物か玄武岩(マグマが結晶化したもの)のどちらかだと考えていた。ところが、今回の掘削時の岩石のふるまいを考えると、深部で結晶化して粗い粒子を形成する玄武岩の可能性が高いと考えるようになった。

「この岩石を掘削し始めたとき基本的に何が起きたかというと、もろい結晶粒界に沿って砕け散ったのです」と、スタック・モーガンは言う。かつての湖底でパーサヴィアランスが掘削していることを考えると、これは非常に興味深い発見だ。

湖が堆積してできた泥の層である堆積岩を掘削できれば、微生物の痕跡を得られる可能性がある。一方、玄武岩のような火成岩からは地質史がわかる。つまり、科学者はマグマが硬岩に変わった時期を知ることができるわけだ。言い換えれば、パーサヴィアランスは心が躍るような発見に出くわしたのかもしれない。

「正直なところ最良のシナリオは、岩石のコア採取に成功することでした」と、スタック・モーガンは言う。「次にいいシナリオは、この地域の居住可能性を探るチャンスを得ると共に、ジェゼロ・クレーターが居住可能であった時期を正確に示す年代制約を提供する岩石を発見した可能性があるということなのです」

NASAはパーサヴィアランスの次の行動の日程を、まだ発表していない。だが、チーフエンジニアのジャンドゥラはブログ投稿で、パーサヴィアランスは最初の掘削穴をあとにして、ヘリコプター「インジェニュイティ」が堆積岩である可能性が高いと判断した次の採取場所に進むと書いている。「次の場所は、地球上でのテスト条件にもっと一致することを期待しています」

「ハードウェアは正常に動作しましたが、今回は岩石が協力してくれませんでした」と、ジャンドゥラは続ける。「探査の本質を改めて思い知らされました。どれだけ準備しても、狙っていた結果を得られるとは限らないのです」

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