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Sunday, October 25, 2020

書く力は「大学で学ぶ」ための基礎体力。 スポーツ健康科学を学ぶ学生を支えるライティング教育と学習支援|JUNTENDO SPORTS(順天堂スポーツ) - juntendo.ac.jp

スポーツ健康科学部 教授
大野早苗

大野先生①

数多くの学生が、スポーツ、スポーツビジネス、運動、健康などに関するさまざまな専門科目を学んでいるスポーツ健康科学部。授業で学んだ成果は、自分の感覚や感想にとどめておくのではなく、レポートや論文などアカデミックな文章で表現することが求められます。日本語教育学を専門とする大野早苗教授は、スポーツ健康科学の学びを書いてアウトプットする力を養うため、授業での指導にとどまらず、授業外での学習支援にも取り組んでいます。

スポーツ健康科学部で
日本語教育の専門家に求められる役割とは

 私は、スポーツ健康科学部の教員であり、日本語教育学を専門とする研究者です。
 スポーツ健康科学部の学生の大半は、高校までスポーツに打ち込み、スポーツが好きだから、という理由で進学してきます。その学部で、日本語の研究者が一体何を教えているんだろう、と疑問に思う方もいらっしゃるかもしれません。私の担当する「文章表現法」は、スポーツ健康科学部に入学した全ての学生が、1年次に履修する必修科目です。学生が入学して最初にこの科目を学ぶのは、日本語で文章を書く力が、スポーツを大学で学ぶ上で不可欠なものだからです。
 大学で学ぶ学生には、論理的に学ぶことはもちろん、学んだことをレポートや論文として表現することが求められます。文学部でも、経済学部でも、スポーツ健康科学部でも、それは変わりません。私が担っているのは、これからスポーツ健康科学の諸分野を学ぼうとする学生に、学んだ事柄を学術的な文章で表現する方法を指導すること。大学で学ぶための基礎力を養う、重要な役割だと考えています。
 

実技の授業

スポーツを学ぶ学生たち。学んだことをレポートや論文で表現することが求められる。

 かつて大学では、レポートや論文の書き方は学生が自主的に学ぶものとされていました。しかし、1990年代以降、アカデミックな文章を書く教育は大学が行うべきもの、と認知されるようになり、現在ではほとんどの大学が初年次教育でライティングの指導を実施しています。その指導は多くの場合、私のような日本語教育学を専門とする教員が担っています。
 日本語教育学は本来、日本語を母語としない人に日本語をどう教えるかを研究する学問です。大学では以前から、日本語教育学を専門に学んだ日本語教師が、留学生に日本語で論文を執筆するための指導を行ってきました。一方で、かつて日本にはレポートや論文の書き方を教える科目がなく、当然、ライティング教育の必要性が認識されるようになっても、大学にライティングを教えられる専門家はいませんでした。そのため、指導役として、留学生に対する指導のノウハウを持つ日本語教師に白羽の矢が立ったというわけです。

「ことば」という観点から
スポーツをとらえるゼミナール活動

 私が指導する日本語学のゼミナールでは、スポーツの世界で使われる言葉にスポットを当て、それぞれの学生が興味を持ったテーマに関する日本語の分析を行っています。たとえば、「スポーツと報道」をテーマにした学生は、日本語と英語のスポーツ記事の文法構造を比較し、情報の展開にどんな違いがあるかを検討していました。意味論的な観点から、指導者に掛けられた言葉の中でも「励まされた言葉」を集めて分類し、どんなタイプの言葉に励まされるのかをまとめた学生もいます。中には、部活動での実体験から研究テーマを見つけた学生もいます。男女混合で活動する運動部に所属している女子学生は、同級生の男子学生と自分とでは、後輩の男子学生に指示を出す際の言葉遣いに違いがあることに気付き、性別による話し方や言葉の受け止め方の違いの分析に取り組んでいます。彼女は、企業内で女性上司はどんな話し方をするのかを分析した書籍を読み、男性の後輩に対する自分の話し方と共通するものを感じたことがきっかけで、このテーマに取り組みたいと考えたそうです。
 スポーツとことばの関わりには、さまざまな切り口があります。学生には「ことば」という観点からあらためてスポーツを眺め、研究を通じて考えを深めてもらいたいと思っています。

大野先生②

「ことば」という観点からあらためてスポーツを眺め、研究を通じて考えを深めてもらいたい。

学習支援の仕組みを構築し、
書くためのコンテンツをつくる

 文章表現法の授業では、レポートや論文に適した文体、書き言葉と話し言葉の特徴の違い、引用のための技術などを指導し、学術的な文章を書く力を養います。「です」「ます」を使わない、主観的な表現を使わない、といった形式を整えることは、どの学生も比較的早くできるようになります。しかし、問題はレポートの形式を覚えた後です。
 レポートが「苦手」「書けない」と言う学生は、珍しくありません。その理由は、大きく二つに分かれます。まず、授業を受けて頭の中に自分の考えを持っているものの、レポートとして書くことが苦手、というケースです。この場合、頭の中にあるたくさんの情報を整理し、文章だけで自分の考えを理解してもらうためには何をどんな順序で書かなければいけないのかを指導していきます。もう一つが、授業の理解が足りず、そもそもレポートを書くためのコンテンツがない、というケースです。スポーツ健康科学の分野のコンテンツは、それぞれの専門科目の中で学ぶものですから、日本語教育が専門の私が教えることはできません。
 書くためのコンテンツを持たない学生に対し、「書くこと」を教える私ができることは何かと考え、数年前から、授業時間外に学びをフォローアップする勉強会を行っています。

 勉強会は、教える側の学生アシスタントと支援が必要な学生をマッチングし、週に1回程度、一緒に勉強する形を取っています。学生アシスタントはアルバイトとして募集し、選考も行います。教わる側の学生は、教わりたい学生アシスタントを指名することも可能です。「授業では聞けなかったことを質問できてよかった」という声が寄せられたり、前の年に支援を受けた学生が、翌年も早々に申し込んできたりする様子から、一定の効果があったのではないかと考えています。
 

勉強会

勉強会の様子

 勉強会では、下級生が上級生に教える、というケースもあります。その様子をのぞいてみたのですが、3年生が2年生に「これはどうなるの?」「もう一回教えて」とフランクに質問し、それに応えて2年生も一生懸命教えていました。上級生が卑屈になることも下級生が遠慮することもない、とても良い雰囲気で、見ていて少し感激してしまいました。他学部との比較はできませんが、アスリートの多いスポーツ健康科学部らしい光景なのかもしれません。

自由や新しさの追求は
先人の研究を学ぶことから始まる

 学習支援の仕組みは、自分の専門領域から生まれた問題意識を周囲の先生方と共有し、うまく定着させていくことが今後の課題です。また、勉強会の新たな展開として、資格取得のための勉強会も企画しています。学びが遅れがちな学生のフォローにとどまらず、力のある学生が興味を広げるための支援も充実させていきたいと考えています。
 私が日ごろ接している学生の多くは、入学して間もない1年生です。講義などの機会を通じて、学生には、自由さや新しさを求める前に、まず授業で与えられる教科書やテキストをしっかり読むこと、授業でメモを取って教員の話をしっかり理解することの大切さを伝えています。いくら自分が「自由に発想した」「新しい考えだ」と思っていても、スポーツ健康科学の分野で先人が行ってきた研究を学んでいなければ、それが本当に自由で新しいことなのかを知ることはできません。面談をしていると、学生がよく「勉強が難しい」と言うのですが、難しいから学ぶ意味があるのです。自由を言い訳にせず、文献を読み、授業を理解し、しっかり言葉でアウトプットできるようになってほしいと思っています。

大野先生③

文献を読み、授業を理解し、しっかり言葉でアウトプットできるようになってほしい。

プロフィール

大野 早苗 SANAE OHNO
順天堂大学スポーツ健康科学部スポーツマネジメント学科 教授

1986年、神戸大学文学部文学科卒業。2002年、お茶の水女子大学大学院人間文化研究科(博士課程)単位取得退学。2003年、博士(人文科学)取得(お茶の水女子大学)。
日本語教育学の中でも、談話分析、談話の日中対照比較研究が専門。医学部では留学生への日本語科目も担当している。

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